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第35話

普通さ、後輩をこんな風に抱きしめたりする? しかも男だけど僕… それに… 「じゃぁ…三階…」 「…」 「…もう一度…キス…してみようか?」 「!」 「…ほら、その顔はもう気づいてる…」 ふふんとした表情をされ、抱きしめられたまま僕の顎に指が添えられた。 そしてあの日応接室であった出来事を思い出す。 知らない誰かに突然されたキスは衝撃的で忘れることができなかった。 あの時に抱きしめられた感覚と体温、そして匂いとが目の前の彼と同じだった。 庭で…ベランダで会った時や香乃先輩の部屋の時も心の中でもしかしたらという予感がしていたけど… 「…あ、あの時…ソファーに寝ていた人……」 「正解。あそこは俺の仮眠室…あの時は本当痛かったんだけど」 「え?」 「俺のチンコもろに蹴っただろ。マジ悶絶でタマがぶっ壊れたかと思った」 「…あ、そうなの?夢中だったから全然覚えてないや。壊れた?」 「……マジ…ムカツクな」 「ていうかっ!こっちの方が被害者!あんな事してっ!人違いして!」 「…」 「…恋人と僕を間違えたんでしょう?」 「…あ?そういえば…そうか…あの時は…」 …成谷先輩は遠くを見つめその時のことを思い返しているようだった。 あの時誰と間違えたのか知らないけれど、キスをしたい相手と言ったら恋人に違いない。 「恋人だと思ったことはないから恋人ではない…かなぁ」 「はぁ?」 ふふっと笑うその柔らかな微笑みが本当に綺麗で甘くて… 嘘くさい。

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