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第40話
実家で待機していた横溝も寮に戻ってきて、また登校出来るようになった。
細田家は現在勤めていた病院から姿を消し、離島の診療所へ飛ばされたとかそういう噂があるけれどどうなったのかはわからない。
実際病院内での細田の評判は悪く、誰もその後の細田に関心を寄せる者はなかった。院内の人事も落ち着き以前よりも穏やかになったようだ。と、野宮生徒会長が言っていた。
あの人は対応が素早くて凄い…
「三階の為なら俺死ねる」
「え」
そう横溝に言われ、どう返したらいいのか混乱した。
気持ちも落ち着いたように見える横溝には笑顔も見え始めて、以前より顔つきが優しくなった気がする。
いい顔だと思った。
「それは言い過ぎだけど、でもそれくらい感謝してる」
ぎゅっと横溝に抱き締められると、周囲からきゃーきゃー黄色い声が上がった。
きゃーきゃーって…ここ男子校だよな?
細田が退学になったことを喜んでいる生徒は少なくなく、表沙汰にはなっていないけれどその件に僕が関与しているという噂が流れているらしいかった。
「気にしないで。って言うか僕そんなに感謝されることしてないし。色々動いてくれたのは生徒会だよ。でも横溝が元気になって良かったよ」
「そんなことない。…あいつ…凄く気持ち悪い奴だっただろ?…本当辛い思いさせた…ありがとう」
横溝の背中に腕を回しトントン軽く叩くとまた周囲が沸く。
何か色々誤解されそうだけど今はそんなこと全く気にならなかった。
「…言っとくけど三階がその気あるなら…俺三階とつき合ってもいいよ?」
「え」
「…ありがとう」
…
…よ、横溝の笑顔は色っぽかった…
抱き合いながら見つめ合うと先に横溝がぷっと吹き出す。
それにつられて僕もクスクスと笑った。
良かった。
学校も友達とかそんなに興味はなかったからこういうやり取りは少し苦手だ。
なので若干こそばゆい…あんな辛い経験をしたのに笑顔を見せてくれる横溝は強い心の持ち主だと思った。
……
人は個々に抱えているものがある。
あの時ワザと転んで良かった…かな。
「あの…三階くん?」
「?」
ふと声をかけられて振り返ると、
知らない生徒がもじもじしながらこちらを伺っていた。
「あの…小耳にはさんだんだけど、細田の件で三階くんがかなり貢献したって聞いたんだ…で、俺もちょっと嫌なことされていたから…あ、嫌なことってそんな大したことじゃないんだけどね。でも俺からしたらかなり嫌なことだったからあの…お礼を言いたくて…」
もじもじ具合がオーバーでちょっと面白いなと思ったけどとっても可愛らしい女の子みたいな生徒が立っていた。綺麗な子…
「3組の粉川秋って言うんだ。三階くん凄いね本当凄いね俺関心しちゃって本当カッコいいなぁ」
「そんなことないよ。それに僕じゃなくて生徒会にお礼言って?」
「生徒会じゃなくて!!!!」
突然叫ぶ粉川の声にびっくりした!
叫んでからハッと我に返る粉川はフッと深呼吸し僕の手を握って感極まったように涙を浮かべている。
…
「三階くん…俺、三階くんのこと尊敬しちゃう。好き!お友達になってください!」
…一緒にいた横溝も突然現れた粉川のテンションに目が点になっていた。
キラキラ眩しくやたら瞬きをする粉川の瞳がやたら眩しかったんだけど…
「嫌だ」
そう本音が口から零れていた。
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