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第45話 式典前
「一年生代表で…ですか?イヤです」
「そう、この学園創立60周年の式典が来週予定されているんだけど、新入生代表での式辞を三階にお願いしたいんだよ」
「…そう言うのって新入生でいいんですかね…イヤなんですけど」
「あはは、それお前が気にすることか。入学式出席できなかった分を挽回できるじゃないか。頑張りなさい」
「…」
くそう…それを言われたら断れない。入学式をすっぽかしたのは僕であり、予定していた新入生代表の式辞は急きょ別の生徒にお願いしたのだ。
「式辞の原稿はこっちでちゃんと用意するからよろしく頼むよ!校長先生も楽しみにしてるってさ!」
「は、はい…」
担任の森にぼんぼん肩を叩かれた。
痛いって…
「へー来週の式典三階出るんだ。それは楽しみだ」
隣で聞いていた横溝が他人事の様に呟く。
「…まさかの創立60周年…面倒くさいったら…」
「原稿読むだけだろ?」
「まぁ、そうなんだけどね…」
「俺も三階くんの晴れ姿楽しみっ!」
「…なんで粉川がいんの?」
迷惑そうに横溝が突っ込む。そのツッコミももう何回目だろ…粉川が現れるたびに言ってる気がする。
「隣のクラスなんだから別に可笑しくないだろ?友達のところに来てるだけなのに何か変かなぁ?それに横溝には関係ないじゃん」
「…はぁ?何なのお前」
「はいはい、喧嘩はしない。粉川ももう時間だから教室戻って」
「えー!三階くん!式典応援してるからね!サポートするよっ!じゃあねー!」
ウィンクしながら自分の教室に戻っていく粉川を顔をしかめながら横溝が睨みつけていた。
「あいつ何なの?本当何言ってもくっ付いて来るんだな…三階もよく耐えられるな」
「…はは、はじめは結構色々言ってたけどさ…悪い奴じゃなさそうだし。もう放っといてる」
「はー?俺は絶対駄目なタイプ。あいつナルシストだし相手のこと考えてないし…友達いなそう。あ、ねぇ三階…あれって成谷先輩じゃないか?」
「ん?」
教室の窓の外を眺めれば校庭のグラウンドで二年生が体育の授業をしていた。
確かにその生徒の中に成谷先輩の姿が見える。
「確か先輩陸上部だったかな。速いらしいよ足」
「へー…見かけによらず…走れるんだー」
「え、何それっ?何か辛口だな三階。結構成谷先輩にお世話になってるんじゃないの?…あの日の夜とか…先輩のとこに泊まったんだろ?」
「んーそうだけど…」
「…何もなかった?」
「何もって?」
「襲われたりしなかった?」
「…うん、ないよ」
「…そっか」
「前回も同じこと言ったような…?」
「あはは、確認確認!結構先輩の色々な噂聞くから本当に?って思って」
…色々噂って言うのは俺も聞いている。
粉川という恋人がいるのに他にも色々つき合ってる人がいるとか男女問わず通いつめているとかそういう…本当だらしない話。
そしてよくわからないけど、最近僕も成谷先輩の毒牙にかかったとされていて…無駄に溜息がでる。
確かにあの容姿にあの甘いマスクだからモテるんだろうとは思うけど、あっちこっちそっちにと手を出してる奴って……最低って思う。
ジャージ姿の成谷先輩を教室の窓からぼーーーっと眺めていた。
足は長いしストレッチも難なく柔軟にこなしていて運動神経がいいんだろう…いい動きをしていて羨ましい。
僕は自慢じゃないけど前屈しても手は地面に届かない。
あんな風に身軽に動けたら体育の授業も楽しいんだろうなぁ…
そう思っていると…
…
あ、
成谷先輩と目が合った。
何故…こちらを見る…
すぅっと甘く微笑んだと思ったけど、……あー遠いし僕目が悪いから良く分からない…
……
そういうことにしておこう。
ふぃっと窓から視線を外して次の授業に向かうべく頭を切り替えた。
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