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第51話

…… さて、 どうしよう…… この原稿は役に立たない。 一瞬真っ白になった頭を元に戻し、 オフにしていた脳を無理矢理オンする。 … 余計なことは後で考えるとして、脳内でペラペラと記憶のページを捲る。 … 公の場ではどんな失敗も許されない。 絶対に… 絶対にだ… 三階家である僕がここにいる理由はただひとつ。 前を向き研ぎ澄まされたこの空間を数分間支配すること。 集中しろ…… すぅ…… 「…長かった梅雨もあけ、初夏の風が爽やかな季節となりました。この佳き日、私立蒼央高校創立60周年記念式典を挙行するにあたり、東京都議会副議長はじめ多数のご来賓並びに関係各位のご臨席を賜り、このように盛大に式典を開催できますことは、生徒一同にとりまして大きな喜びとするところであり、新入生を代表して厚く御礼申し上げます。………」 淡々と頭で即席に組み合わせた文章を吐き出していく。 一度目を通した式辞の原稿は半分以上覚えていないので大部分が適当だ。 小さな頃から数多くの式典やパーティーには参加させられていたし、中学でも式辞は読まされていたのでそれが役にたった。 そう… 最後まで集中しろ… そのまま式辞を読み終え…自分の席につくまでよく覚えていない。 …オンからオフに切り替わると途端に体から力が抜けて行く。 指先が冷たい… … 早く… 早く終われ……こんな式典。 時間が過ぎて立食パーティーが始まる前にやっと堅苦しい席から解放された。 「三階!!お前凄い!式辞良かったよ」 興奮しながら横溝が近づいてくる。 「……横溝……ごめん。ちょっと疲れたから抜けるわ…」 「だ、大丈夫か?真っ青だぞ付き添うぞ?」 「……有り難う。でも大丈夫だから…」 そう横溝に伝えて体育館を飛び出した。酸素不足な気がして息苦しい。 いつも昼寝する時に行く芝生の場所までフラフラと木々の間を抜けて行く。 「……はぁぁ…」 …疲れた…本当…何なんだよ… 今晩のお品書き100選って何… 大きく息を吐きその場に寝転んだ。 深呼吸を繰り返し瞳を閉じる。 …

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