53 / 142
第53話
成谷
華やかに始まった式典。
新入生代表の名前が呼ばれ、壇上に上がる三階の姿を体育館の扉の隙間から見つめた。
……さて、
あいつはどうするだろう。
原稿がないと知らずに皆の視線が集まる演台の真ん中からこちらに向かい一礼する。
あ?
原稿あるじゃん、
そう思ったのも一瞬で三階の表情が曇るのがわかった。
恐らくそれに気が付いた者は少ないだろう。
原稿は白紙か偽物か…
不安や心配する気持ちよりも、どうやってこの場を切り抜けられるかという三階の手腕に興味がいった。
この場で取り乱しみっともない姿をさらすことになるか、冷静に判断して対処できるか?三階グループのお坊っちゃまはさて…どうする?
全校生徒が集まり数多くの来賓は一流の企業や議員達だ。
すでに来賓達は好奇な目で三階を見つめているだろう。
ほんの数秒間固まった三階は原稿をしまい、真っ直ぐこちらに向き式辞を述べはじめた…
…
…ちょ
ちょっと待て。
誰?
普段のおっとりとした三階とは全く違う堂々とした姿勢。
ハキハキとした透明感ある声はとても聞きやすく魅力的で爽やかだ。
…お前誰だよ?
て思うくらい壇上の新入生代表は明るい優等生だった。
つか、原稿まる覚えしてるのか?
でも暗記できる量にしては多すぎる…
すらすらと式辞を述べる三階の姿は知っている三階とはかけ離れていて…
目が離せない。
別人かと思うほどだった。
そして、
式辞はつつがなく終わり、三階が席に着くのを見届ける。
…
俺はそっとその場を離れた。
…
もう、くだらない式典に興味はなかった。
ともだちにシェアしよう!