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第54話
成谷
…
かったるい式典は放置して、いつもの場所に寝転がる。
お気に入りの場所は中庭から少し外れた茂みの中。
この辺りは木陰で風が良く通り芝生も柔らかで昼寝をするのに最適な場所だった。
そこでウトウトしながら微睡んでいると最高なのに、何故かいつものように寝ることが出来ない。
…
眠りたいのに目を閉じてみても、あの眼鏡のことが浮かんでくる。
やれやれ…マジか…
三階のことを気にする自分が馬鹿みたいに思えてきて少しイライラしてくる。
何なんだよ……ったく…
そう…わかっている。
壇上の三階はカッコ良かった。
生き生きとしていて誰もが惹き付けられるくらい輝いて見えた…
三階の名前は伊達じゃなかったか…
あれは人の上に立つ器だと直感した。
以前この辺りの茂みに隠れ芝生の上で授業をサボり昼寝をしていた三階を見かけたときはろくでもないお坊っちゃまだと思ったし、細田の事件のときは怖い思いをしてまで友達を助けていて変わった奴だと思った。
はは…あいつ面白い奴……
寝転がりながらそんな事を考えていると、ガサリと近くで人の気配がした。
もしやと思いそっと茂みの間から覗くと…
頭を垂れてため息をついている三階の姿があった。
…
息苦しそうにぐしゃりとうつ伏せに倒れる様子は、先ほどの壇上の優等生とはかけ離れている。
薄い背中が呼吸するたびに上下に揺れて苦しそうだ。
そしてそのままピクリともしない…
死んだ?
あー…あれか以前気絶したみたいに緊張の糸が切れた?
やれやれと仕方ない奴と思い近づいてその薄い身体を抱き起こした。
「良く…頑張ったな」
「…」
一声かけ冷や汗をかいた三階の身体がヒヤリとしていてドキリと心が跳ねる。
それと同時に口を半開きにして呼吸をするのに精一杯の三階のつらそうな表情が…
やけに官能的に見えて……
そそられた。
思わず半開きの口に吸い込まれるように唇を重ねて、その柔らかさと冷たい感触に少し戸惑う。
フワリと温かい吐息がかかるともっとその温もりが欲しくなり、邪魔な眼鏡を外して再び唇を重ねた……
何か三階が言った気がするけど聞いてない。それくらいキスに夢中でキスを堪能した。
スゲー…気持ちいい……
柔らかな前髪が自分の髪に頬に触れるたび馬鹿みたいにドキドキしている自分がいる。
抱きしめている薄い背中がまた儚く感じてしまいさらに強く抱きしめてしまった。
……
「は…はぁ……はぁ…」
「…」
たっぷりと唇を堪能してようやく離れた。
唾液で濡れた唇は艶めいてまだ誘っているように思えた…おかしい…それくらいそそられる。
しかし三階の瞳は潤んで明らかに怒っていた。
「な、な、何をするんですか…!」
「…悪い…式辞お疲れ」
「意味が…わからない…!!!」
だよね。
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