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第60話

「はあぁ!?それって絶対粉川の仕業じゃん!」 「…確率としては…一番疑わしいけど」 「確率じゃなくて!絶対だよ!でも原稿なしであんなにスラスラできるなんて信じられない!ハキハキしてて生き生きしてて三階じゃないみたいだった」 「あはは、あんなテンションいつもとか…無理だから」 確かに横溝が言うように原稿をすり替えたのは粉川だと思う。 式典が始まる前、思い切り抱き着かれたときにだと思うけど…よくこんなことをするものだと改めてその度胸に感心してしまう。 演台に向かい原稿を開いたとき中身が変わっていた時は本当驚いた。 「ふぅ…疲れたな…」 窓から外を眺めると遠くには雨雲らしき灰色の雲が見える。 夕方から雨になるのかな… 「何か食べる?顔色まだ悪いし体育館戻りたくないよな。ここで食べるか…」 「うん…」 パンとスープを食べたら少し体調も良くなった気がする。 「うーん…にしても暫くは成谷先輩を避けた方がいいな」 「え」 「好きだって自覚した三階を先輩に接触させたらひとたまりもない。あんな顔した三階先輩が見たら絶対また襲われる!」 「そ、そんなことないと思うけど…確かに会いたくはないかなぁ…」 やっぱり粉川が先輩の隣にいると思うと…他にももしかしたらそんな関係の人がいるかもしれないと思うと…心がドスンと重くなる… そんなだらしない先輩には会いたくもないし第一会ってもどうしたらいいのかわからない。 …はぁ…俺は本当に毒牙にかかってしまったみたいだ。 何でなんだろう… 何であの人のことが好きになったんだろう… … 誰もが惹かれるのだろうあの容姿…あの笑顔に… …あの笑顔に? 僕はどこに惹かれたのか… … きちんとした答えは出てこない。 「よし。俺が三階を守るから安心して!先輩は怖いけどそんなこと言ってられないっ!」 「…あ、ありがとう」 そこまでしなくてもいいよって思ったけど、やる気満々の横溝にそんなこと言えなくて…それに守るとか…そう言ってくれたことが内容はどうあれ嬉しかった。 いい奴だぁ… 「ね。横溝のこと、幸って呼んでもいい?」 「え!!!!い、いいけど」 「有難う。僕の事…良かったらだけど千歳って呼んで?」 「!!!い、いいの?」 「幸がよければ…」 「ぜ、全然いいよ!千歳!有難うっ!やっぱりつき合えるよ俺たちっ!」 満面の笑顔の横溝がとっても美しくて頼もしく思えた。 そしてその日から僕は成谷先輩を避けることに専念したのだ! 出来る限り回避しよう。 僕と成谷先輩が結ばれることなんてないのだから…

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