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第62話

野宮 一智は人の好みの差が激しい。 直感なのか好きと嫌いがはっきりしている。 そんなあいつが三階のことを酷く気に入ったみたいで、良くあいつの話題に三階がでてくる。 話題に出す理由はもう一つ… 太我が三階に興味を持っているからだ。 それは綺麗好きで警戒心の強いあいつが、自分の部屋に三階を泊めたことで理解できた。 …しかも手を出さないという約束も守って…… 確かにかなり…かなり興味深い。 それは一智も同じでやたらに太我に三階の情報を流す。 式典の式辞の出来事も太我から聞いた。 深く考えずに原稿をすり替えるという粉川の浅はかな行動には呆れてものが言えなかった。 …親父の耳に入ったら親父は粉川のことを許さないだろうな… 偽の原稿を太我から見せてもらったが、何事もなかったように振る舞い式辞をカンペなしで読み上げる何てなかなか出来ることではない… そういうところに太我は惹かれただろうか? 今までの他者と比較してみても別格の扱いに一智がニヤニヤする訳だ。 そう思っているとその当人が向こうから歩いてくる。 美しく優雅に歩くその姿は自然体で人を惹き付ける…優しい笑みを浮かべていて甘い雰囲気が漂っていた。 その雰囲気にコロッと騙される学生がいるのは事実で、つい男子校だというのを忘れてしまう… はいはい、モテ男の登場だ。 「おはよう。今日は遅刻じゃないようだな」 「まあね。今朝走ってたし…やぁ…おはよう横溝」 「お、おはよう…ございます…」 ? 横溝の焦り方に引っかかるけれど、そのまま太我は校舎に入って行ってしまった。 ふむ、何かあったかな? 太我に挨拶された横溝は怒っているような泣きそうな表情をして立っていた。 「…どうした横溝」 「い、いいえ!なんでもありませんっ!」 …… 自分を奮い立たせるように横溝は呟きまっすぐ前を見ていた。 半泣きだけど?

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