65 / 142
第65話
気がつけば夏休み目前で、蒸し暑い日が続いていた。
夏休みは家に帰れる!
嬉しい…嬉しいんだけど、
あの式典があった日からほとんど成谷先輩とは会っていない。
…
それは避けているから当然なんだけど、偶然遭遇しても特に会話をする訳でもなく挨拶を交わすこともなくなった。
それと、あんなにしつこく付きまとっていた粉川も僕のところにぱたりと来ない。
式典のあった次の日、その粉川は式辞の原稿すり替えのことを素直に認めてこっそり謝罪しに来た。
その時に…
「み、三階くん、…あのさ、大きな声じゃ言えないんだけど、成谷先輩には気をつけて…あの人ヤバいよ。凄ーーく怖いから…本当は俺とあの人が恋人とかそういうのさ、嘘だったんだ!俺ね、本当は三年の優しい先輩と付き合ってるんだよ。成谷先輩とは全然関係ないからさ…今までの俺が話してたの嘘だから!あの人と俺は関係ないからね!ね!」
「…は、はぁ」
……あんなにキュンキュンくねくね幸せそうにしながら話してたことが嘘ですか…
何…三年の先輩と付き合ってるって…
何なのさ。
成谷先輩と何があったのかわからないけど、責任感の全くない粉川の爆弾発言に呆れてしまった。
謝罪しにくるだけまだいいのか…?
でも、
付き合っていなかった?
…
少しだけ胸のわだかまりがとれた気がするけど、だからといって先輩に会いたいかと聞かれたら微妙だった。
…
会いたい…けど会いたくない…
だから会わない。
『悪い奴じゃない』
香乃先輩は以前成谷先輩のことをそう言っていた。
幼馴染がそう言うんだろうから成谷先輩も悪い人ではないんだろう…僕もそう思う。
香乃先輩は式典で僕に起こった出来事を知っていた。
無くしたと思っていた偽の原稿は、あの時僕がに落としたみたいで成谷先輩が拾ってくれたらしい。
「その原稿は頭にきて俺が破いた!」そう香乃先輩が言っていたのが嬉しかった。成谷先輩も怒っていたらしい…
…怒ってくれたのか…
キュってなる…
はぁ…
会わなければこんな気持ちも変わっているのかもしれない。
うん、そうだ。
忘れよう忘れよう!
丁度夏休みに入るし…いいタイミングだと思った。
よし!
夏休みは思い切り息抜きするぞ!
ともだちにシェアしよう!