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第69話
一応警戒はしていたものの、気を抜いてしまった。
自分でやればいいのにあれよあれよという間にボタンが外されて、気持ち悪い唇がチュッチュと胸元を啄んでいた。
香水の香りにやられてしまったんだ。
うえぇ…胸焼けがする。
それに…
まさかの成谷先輩との遭遇も原因の一つで心臓が止まるかと思った。
綺麗な女性とのハグシーンが絵になりすぎていて、ぼーっと見とれてしまった。
……
やっぱり先輩はカッコいいと思いつつこの場はビジネスの場だからと、やる気スイッチをオンにして明るく振る舞った。
でも…心臓はばくばくだ。
あんなに避けていた先輩が隣にいて普通に話してる。
先輩の隣には美人な人が良く似合う…
改めてそう思った。
このデザイナーは若い子が好きだから気を付けるように言われていたのに…
気を付ける対象が途中から成谷先輩へと切り替わってしまった。
あああぁ…心臓ぶっ壊れてるよぉヤバいんだけど…
「大丈夫か?」
はあ?
「だ、大丈夫なわけないじゃないですか!」
身支度をしてから二人で先程の会場へ向かう。
もうこんな所はいたくない。
早く帰りたい。
「…だよな。凄い顔真っ赤だぞ」
「」
もう…
変態デザイナーとの出来事が吹っ飛ぶくらいさっき先輩にされたことが恥ずかしくて衝撃的で、今まで頑張って避けて断ち切ろうとしていた想いがリセットされてしまった。
胸に沢山キスされた…
綺麗にするって言ってた…
…
駄目だ…好きすぎる…
それに乳首…
…
カアァァァァァ…
だ、だだだ駄目だ…思い出すな!
思い……
出すーーーーー!!!!
「千歳ーーー!!」
会場の扉を開け、兄の千央が秘書と駆けてくるのが見えた。
「お前何処に行ってたんだ!会場にいなくて焦ったぞ」
「ちょっとあって…疲れた。もう帰る」
「そうだな千歳は先に帰りなさい…その顔どうした?着ていたジャケットは?あと君は?」
ジロリと視線が隣にいる成谷先輩に向けられた。
「はじめまして。蒼央高校二年の成谷太我と言います。この会場で偶然三階くんを見かけて暫くの間話をさせて頂いてました。これ彼のですよね」
そう言いながら先輩は腕にかけていた僕のジャケットを兄に渡した。
「あぁ、学校の…成谷といえば…成谷物産のご子息かな?私は千歳の兄の三階千央。…失礼だけどこのジャケットを…何故君が?」
「…言ってもいいか?三階」
「…だ、駄目」
「今し方ここのブランドのデザイナーに乱暴されていました」
「だ!!駄目っていったじゃん!」
「な、なんだと…」
「直ぐに発見できたので大事に至らなかったんですが…売れっ子デザイナーのやることじゃぁないな」
溜息をつきながら呆れた顔をする成谷先輩と…明らかに…機嫌が悪くなった兄……
「…千歳…本当か…?」
「……う、うん」
っていうか成谷先輩のその呆れ顔が僕から見たら超わざとらしい…
あれって先輩にも襲われたって言えるんじゃぁ…そんな僕の意味ありな視線に気がついたのか、成谷先輩の顔が一瞬困ったような表情をした。
…
…もう……
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