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第70話
「よりによってうちの可愛い弟に手を出すなんてな…いい度胸してるな。…どうしてやろうかな」
…あーあ…ほら、きた…僕しーらない。
以前から僕宛てにパーティーの招待状が届いていて、面倒くさいのとデザイナーの性癖を兄が警戒して断ってたんだけど、さすがに三度目のお誘いは出席しないわけにもいかないので一時間位ならとやって来たんだ。
熱望ぶりがわかったのは挨拶に行って直接会ってみてから。
それからずっと僕を離さずに横において、終始ご機嫌でベタベタしっぱなしだった。
兄さんがちょっと離れた時の隙をみてあんなことするなんて理解できない。
お茶をこぼしてしまった僕も注意が足りなかった…
成谷先輩がいてくれて助かったことは本当だ…あのまま誰も来てくれなかったらどうなっていただろう…
でも…
「兄さん僕帰る…疲れた…」
苦しい…
先輩から…離れたい…
「ああ、そうだな。顔が赤いし熱が出るかもしれない。江ノ本、車」
「はい」
兄さんの隣に控えていた秘書の江ノ本が無表情で運転手に連絡をしようと…
「あの、俺もう帰るので良かったらうちの車で三階くん送りましょうか?」
…
…
は?
理解できない発言が隣から聞こえてきてその人物の顔を仰ぎ見た。
…優しい笑みを浮かべ親切丸出しの甘い顔。
…
「え!あの!いやっ!それは先輩そんなことっ!」
「実は挨拶だけのつもりだったので、運転手を待たせている状態なんです。折角学校の友人に会えたのにまさかこんなことになるなんて…彼のことが心配だし…あぁ三階さんのご迷惑でなければなんですけど」
「いやぁ、しかし…」
そうだ!兄さん断れ!!
「よろしくお願い致します!」
スパッと決断したのは秘書の江ノ本だった。
…
えーのーーもーーとーーー!!!
「まさか千歳くんにご友人がいらしたとは…!素晴らしいことです。夏休みも一人自宅で過ごしてばかりでしたからこの江ノ本…密かに心配しておりました。今回の件、成谷様が心配されるのも無理はありません!」
ゆ、友人じゃないけどっ!!
「三階くんとはとても仲良くさせていただいてます。優秀な後輩ができて…まるで本当の弟ができたみたいで俺嬉しいんです。はぁ…ただ寮が…最上階でないのが残念で……三階くんの今のあの部屋は庭があってとても素敵なんですが、やはりセキュリティーが…言いにくいんですが、寮内も安全とは言えないので…上階に友人が多いし安全だからと上がっておいでと勧めているんですけど」
はあああぁぁぁ!!!!!????
「ちょ!何それ!今それ全然関係ないっ!友人って!!」
「何いってるんだ?俺も一智も最上階だし、三階と同じクラスの横溝は最上階から一つ下の階だろう?」
成谷先輩はここぞとばかりの満面の笑顔だ…
…そう…確かに横溝の部屋は11階だ…だけど…ちょっと香乃先輩も友人扱いになってる!
「うーん…そうか。そこだけは千歳に任せていたけれど、またこういう事が学校でも起こらないとは限らないな…父さんも前から心配していたし…あの柵を直した時点で考え直すべきだったか」
「はい…!わたくしもそう思います」
…
…ちょ?
待って待って?
…嫌な予感…
…
「横溝と委員会も一緒だしお前ら凄ーーーく仲良しだから部屋が近い方が助かるんじゃないか?横溝も三階は可愛いからあの部屋では危険だっー!て心配してたぞ?」
「」
そ、そんなこと幸は言ってねぇだろ…!
う嘘つきやがって!!!
「よし、千歳!寮の部屋はやはり変更しよう!決めたぞ!江ノ本、学校にすぐ連絡だ!」
「はいっ!!」
あああああああああああ!!!!
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