76 / 142
第76話
成谷
夏休みが終わり、また変わりない学校生活が始まった。
3日過ぎたのに、俺はまだ三階に会えていなかった。
…
また俺避けられてんな…
そう思ったけど、どうやら碧人も三階に会えていないらしい。一智は夏休み最終日に三階と少し話をしてそれから会っていないという。
?
そして…
「どうした…横溝?」
「うわ!」
学校が始まって4日目の夕方、最上階のエレベーターの前でウロウロしている横溝がいたので声をかけた。
こいつに会うのも久しぶりだな…
「三階か?」
「え、あ、あの…そうなんですけど、三階…いますか?」
「?」
「…夏休み終わってからすぐ暫く学校休むって連絡あったんだけど、一昨日から連絡しても出なくて…ちょっと心配で様子知りたくて上がって来てしまいました」
「はぁ?休み明け早々サボりか?」
ま、俺も授業殆どサボってるけど…
何度か荷物が三階の部屋に運び込まれているのは見かけたけれど、本人には会えていないし連絡先も知らないのでさっぱりわからなかった。
でも…
生きてるのか?あいつ…
本当に心配そうにしている横溝の顔を眺めつつ若干の不安が過った。
「三階の部屋こっちだ」
「は、はい」
横溝を連れて三階の部屋に向かう。
呼び鈴を鳴らしても応答がなかった。
いない?
いや…
…留守…ではないはずだ。
何度も鳴らしてみる。
「おい!三階!いるんだろ!?開けろー!」
「千歳ー!開けて!」
ドンドン扉も叩いてみる。
暫くすると、
カチャリ
鍵のロックが外れる音…
…
…
「はい…あれ…幸?…な、成谷先輩?」
…
テンションの低い三階が扉から顔を覗かせた。
「千歳!何やってんだよー!」
「??」
「なんで連絡しても出てくれないんだよ!心配したんだぞ!」
「え…あれマジ?スマホ…どこ…だっけ…」
ぼーーーっとしてる三階の表情はボケてるのか無表情に近い。着ている服は動きやすそうなシンプルなシャツにハーフパンツ。
で、髪はぼさぼさでまったく整えられていない。
…クラシカルなスーツでキラキラしていた三階とはかけ離れている。
「うーん…ごめん。どこかにあると思うんだけど」
ペタペタと裸足で部屋の奥へ消えた。
…
なんだこの部屋…
…
あちらこちら至るところに観葉植物が置かれてありグリーンだらけ…
ありすぎだろ…
俺の背丈程もありそうなモノから小さなモノまで数えきれないくらいあった。
「…おい、三階…まさか学校サボってこれの世話してたとか…」
「…え、そ、そうだけど…って先輩!勝手に入って来ないで下さいっ!」
「すごー!癒し空間」
「グリーンないと落ち着かないから…学校なんかよりこっちを整える方が先だよ。夢中になってたからスマホもほったらかしでゴメン。っていうかスマホどこにあるかわからないや」
へへへ…と笑う三階がいた。
…
「えースマホ俺も一緒に探そうか?」
「本当?幸、ありがとう。リビングにあるはずなんだけど…」
「ったく…千歳は何やってんだよ」
「あはは」
「……横溝」
「はい?」
「ちょっと来い」
「な、なんですか?」
「…あいつ…多分ほとんど飯食ってないぞ。何か食べさせてやれ…」
「え」
「顔色が悪いし、夢中でやっていたならランチルームにも行ってないと思う。キッチンも使っていないみたいだしな…」
「そう…言われてみれば…」
「あのままだとぶっ倒れるかもしれない…じゃ、頼んだぞ」
横溝の背中を軽く叩いて三階の部屋を後にした。
……
やれやれ…あいつは何やってんだか。
…ったく、
思わず三階のことを横溝に頼んでしまった。
……
今はそれが良いと思ったから…
俺のことは警戒するくせに横溝には安堵の表情を浮かべるし微笑む。
面白くないけど弱ってるあいつには横溝が必要だ。
「ちゃんと食えって…馬鹿」
誰もいない自分の部屋で一人呟いた…
ともだちにシェアしよう!