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第81話
「……」
「相手の人が可哀想…です!」
「あっちにこっちに恋人がいたとして…じゃぁ…俺はどうしたら…?」
「……その中の本当に好きな人だけと向き合えば良いんじゃないですか?今からでも遅くないと思います」
「うん、でもその中に本当に好きな人がいない場合は?」
「は?……」
「…いない場合はどうしたら?」
「い、いないって、酷すぎます!そもそも向こうは恋人だと思ってるんですよ?先輩が勘違いさせてるんです!そんなことをするとその相手は傷つくんですから!絶対っ謝った方が良いです!」
「えースゲー面倒くさいな…」
抱き締められたまま何してるんだろ…
そして恋愛経験ほぼゼロの僕が、大ベテランだろう成谷先輩に恋愛アドバイスみたいなことを何故言っているんだ。おかしい…
「きちんとけじめつけた方がいいです!それで…本当に好きな人が出来たら……その人だけ愛してあげて下さい……!」
うんうんと頷きながら先輩の顔を眺めた。
困ったような考え事をしているような顔の成谷先輩は新鮮だ。
…少し抱きしめる力が弱まりなぜか髪の毛をもふもふされた。
「こんなだらしない俺のことなんか…好きになってくれる奴いるかなぁ…」
「……大丈夫です。先輩が本気になれば相手もいちころなんじゃないですか?」
…そう…大丈夫先輩みたいな素敵な人なら相手は沢山います。
優しいし、包容力あるし、頭もいい…運動神経抜群!カッコいいし!おまけに料理もできるなんて!凄いじゃないですか!!!自信持って下さい!
って言いたいけど何様だし、恥ずかしいから心の中で熱弁した!
「……いちころ…かぁ…」
何を考えこむ必要があるのかさっぱりわからない!
でも恋人ができたらきっとこういうスキンシップはなくなるんだろうなぁ…
そう思うと若干心にズキズキと心が痛かった…
でもこの特権は特別な人でないと駄目なんだ。
…
そう考えているとふわりと身体が浮いた…??
ってな、な、な??
「ななな?何!?なん…!?」
何で…
何でお姫様抱っこされてるんだ僕は!!??
先輩の行動がさっぱりわからなくてビックリ混乱して先輩にしがみ付いた。
「軽いな…もっと食わないと駄目だな」
お姫様抱っこされたままソファーまで連れていかれ降ろされるとそのままふわりと抱き締められて心臓の鼓動がおかしい!
なんだろう!!
何が起こってるんだ!!
「あの!あの!ああああああのっ!」
「…お前のアドバイス通りにするわ…」
そう言いながら軽く首筋にキスされる。首筋に先輩の息がかかってくすぐったい!
本当になんだこの状況は!
「うあぁ…ええ?何…言って…」
「…鈍いなぁーでもそこがイイのか…」
くいっと顎を指であげられ成谷先輩の整った顔が…すぐそこにあった…
「いちころなんだよな?」
「は」
「三階…俺に一撃されてくれる?」
「…え」
「良かったな。俺に愛されるなんて…しかもお前一人だけだぞ」
「な…なに…これ…」
「今まさに…お前を口説いてんの」
少しだけ微笑んだ成谷先輩から瞳が離れない…
…あ…
僕の眼鏡を避けながら成谷先輩の顔が近づくと唇に柔らかいものが触れた。
「好き」
…
…
えええええええええええ!!!!!
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