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第100話
横溝
…
図書室で読みたかった本を探してお目当ての文庫を手にしたとき、奥まった棚の方から話し声が聞こえきた。
特に気にするわけでもなかったけど、そのうち言い合いするような籠った会話に若干の違和感を覚え、もしやと思いゆっくりとその場所へ向かってみる…
予感は的中して…
生徒が生徒に後ろから覆い被さり、前の子の股間に手を伸ばして悪戯していた。
…
カップルにしちゃ…違和感ありありで…前の子は背格好…真新しい制服からして…多分一年生だろう…
…
棚から本を何冊か抜き取り、覆い被さるそいつに投げつけてやったら俺の存在に気づいていなかったのか、かなり狼狽していた。
俺が誰か確認できたのか、バツの悪い表情を無理やり繕って、
「この淫乱野郎」
とそいつは吐き捨てその場を立ち去った。
…
そう言われたことは何回もある…皆影ではそう思っているんだろう…
言われて傷ついて一人で泣いていたこともあったなぁ。噂は一人歩きすると質が悪い。死んでしまいたくなる時もあった。
…別にもういいけど…今は他人にどう思われてももう痛くも痒くもない。
真実を知ってくれる人がいて、信頼してくれる人がいるから。
目の前に取り残された一年は、そこで動けずに震えていた。
はぁ…無理もないか…
…ったく酷いことしやがって…
後ろ姿からの印象は栗色のさらりとした髪が特徴の一年だった。
口に押し込まれたハンカチをとってやり、下を見ると白く細い脚が小さく震えているのが分かった。
シャツの裾から覗く小さな尻と萎えた陰茎が目に入り…そっと視線をずらす。
「…下着穿ける…?」
「…」
動けないようなので、下着を穿かせスラックスを履かせてやる。小柄な彼はべそべそと泣くばかりだった。
まぁ怖かっただろうから無理もない…
「…ぐす」
「…ここってさ…ああいう奴がいるから気を付けなよ」
「…ぐす」
「…君みたいな一年生は特に一人にならないように……って!」
泣きながら抱き付いてこられてしまいこちらが慌てた!今さっきあんなことされたばかりなんだから、知らない俺に無防備に抱きつくものではない。
「うぁああ……あいつめ…あいつ…ぐす…ぐす…」
「…」
……緊張が緩んだんだろう、肩を震わせて泣いているこの子を無理に引き離すのも可哀想だと思いそのままにさせてやった。
気持ちは痛いほどよくわかる…
涙でぐずぐずな顔だけど、愛嬌ある人懐っこい顔をしている…
入学して間もないのに、もうこういう目に合っているということは、他の生徒より目立つのだろう。
…ここでは目立つことは良くない…
泣いてるその子をそのまま図書室に残して行くのも躊躇われ、一年生の教室までその子を送り届けてやった。
…はぁ…
もう変な奴に引っ掛かんなよ。
そう思いながらいたいけなその子の背中を見つめ見送った…
ただの大人しい後輩だと思ったんだけど…
どうも違ったみたいで?
…
なんだろう…
この視線…
次の日から?
誰かに見られているようなこの感じ…図書室で助けた一年のあの子だった。
気づかれてないと思っているんだろうか?
「ねぇ、あの子誰だろう?」
「…さぁね」
そりゃ一緒にいる千歳は当然すぐ気がつく。
千歳はおっとりしてそうだけど、勘が鋭いしどんな生徒かすぐ見抜いてしまう。
あ、でも恋愛に関してはそれが全く機能しないのか、未だに恋人の成谷先輩には手探り状態のあわあわしたお付き合いらしく、それが見ていていちいち可愛い。
抱き締めたい。
「はは…あの子、小型犬みたいな子。一年だねきっと」
「…」
流石、千歳だなぁ…俺も栗毛?あの子のことをポメラニアンみたいと思ってしまった。
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