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第104話

横溝先輩…? 「先輩…どうしたんですか?」 「…ん、佳川が寮に戻って来るって聞いたから待ってた…今夜は家に帰らなくていいのか?家この近所なんだろう?」 「あ、はい。でも家は煩いんで…」 「…そか…ここの部屋って、今は佳川の部屋なんだな」 「?はい、そうですけど……今?」 横溝先輩は含みのある笑みを浮かべてスマホを操作している。 「ん?…なんか、凄い…いい匂いがするけど」 「あ、そうなんです。これ、母さんが先輩に渡してくれって。うちで作ってるパンなんですけど、三階先輩と食べて下さい」 部屋の扉を開けながら横溝先輩に紙袋を渡した。 部屋の明かりをパチリとつける…と… 「あ!…くっそ…またかよ…はぁ…」 ベランダの様子に思わずため息がでてしまった。 「どうした?は?……なんだよこれ!」 窓ガラスにも飛び散る泥汚れは既に乾いており、部屋に明かりをつけると白く反射して目立つ。 「最近いつもなんで…気にしないで下さい」 「は?いつも?」 「んー嫌がらせなんですかね…本当迷惑。で、横溝先輩何か俺に用事があるんですか?」 「…あ、そう…俺っていうか…」 「こ、こんばんは」 開けっ放しの扉から、ひょこっと顔を覗かせたのは三階先輩だった! え!何で!? 「え、え!?」 「おおお邪魔します。佳川…傷…だだだ大丈夫か?」 「千歳…興奮し過ぎ。ほら、佳川が混乱してるよ」 「」 「ごめん佳川!僕を助けてくれて有り難う。でもその結果佳川にケガさせてしまって…本当申し訳ない…」 え、 え、えー!! 俺、み、三階先輩にぎゅうぎゅうされてるんだけど! ぬあぁ…い、い… 「…本当ごめん。って佳川…いい匂いがするー」 それ俺のセリフー!! 三階先輩こそっめちゃくちゃいい匂いがして…ドキドキしてきてしまう! あわわあわわ… 「ほら、千歳…佳川死にそうにしてるから…」 「え、あ、ごめん…佳川大丈夫?あ、頭痛い?」 「は、はひ…だだ大丈夫です…わざわざ有り難うございます」 「佳川…実はここの部屋、一年前に千歳が使っていたお気に入りの部屋なんだよ」 「ええ!!そうなんですか!?」 「そう!去年の夏休みまで使っていたんだ。佳川がこの部屋だって聞いてびっくりした。とりあえずお礼言いたかったし…ケガしてるのに押し掛けてごめんね」 「いいえ、全然…一階のこの部屋を三階先輩が使っていたなんて…知らなかったです。だって今は最上階ですよね」 「うん、色々あってね。でも今でもここの部屋は大好きなんだよ。素敵な庭があって…開放的で…」 …目の前の三階先輩は、とても嬉しそうに話していてこの部屋への想いが強いんだと感じた。 そんなに特別な部屋ではないのに…ただ庭があるだけ…庭が… …あ… 「三階先輩…ごめんなさい。今、庭が凄いことになっていて…がっかりさせてしまうかも…」 「え」 ベランダの…庭の様子を見せるのが申し訳なく感じた。 誰かが侵入したのだろう庭は、あちこちが泥で汚れ泥の付着した花や葉は枯れてしまっていた… 愕然とショックを受けている三階先輩は…しばらく呆然とほぼ暗闇に包まれた庭を眺めていた。

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