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第108話
横溝
…
まぁ…
いつものように夜中目が覚めただけなんだけど…
…
はぁ……やっぱり熟睡できず、起きてしまった…
冷たくなった指先で首筋を撫でると、ゾクリと鳥肌が立つ…
まだこんな時間か…と思いつつふと浮かんできたのは佳川の痛々しい姿だった。
昼に周囲を気にせず猛ダッシュしてきた佳川を見た時、またこいつかって思った。
千歳がトイレの出入り口から転がるように出てきて大きな音が響いて…一体何が起こったのかわからなかった。
転がるバケツと立ち尽くす生徒…びしょ濡れてぺたりとうずくまる佳川の頭部からはボタボタ血が流れていた。
立ち尽くすことしかできない俺とは違って千歳は直ぐに反応する。
先ずは佳川の傷の確認。保健室に連れて行ったけれどすぐに病院へと運ばれて行ってしまった。
その後はバケツを投げつけた生徒を取り押さえて生徒会が事情を聴いたらしいけど、千歳の事が気に食わなくてムカついてやったことだと吐いた。
完全に千歳が狙われていた。
…
それを佳川が間一髪防いでくれたのだ…
佳川が来てくれなかったらどうなっていたことか…
俺は勿論、成谷先輩は激怒するに違いない。考えるだけでも怖い…
半殺しされるだろうなぁ…あいつ…
明日佳川に詳しく説明してもらう予定になっている…
…
目の前の寝顔は起きている時と変わらず無邪気だと思った。
痛みも治まり落ち着いたのか、話をしているうちに寝てしまったようだ。
佳川鈴…だっけ…変な奴…
ストーカー?追っかけ?
そんなことしなければいいのに迷惑だと言ってもやめようとしない…諦めないで元気に挨拶しにくる根性がおかしい…
渋々挨拶を返すと露骨に嬉しそうにするから、避けてる俺は若干の罪悪感に苛まれた。
迷惑なのに憎めない愛嬌がある…
図書室で起こったことは怖かっただろうに、そんなこと微塵も感じさせない無邪気さ…だたのおバカな子かと思ってたけど、部屋のベランダにされた悪戯に対して感情的にならないドライな部分が印象的だった。
もそもそと眠りながら身体をくっつけてくるのにやれやれと思う。
おさわり駄目なんじゃないのかよ…
…
トクン
トクン
…あったかい…な…
そう思いつつ苦笑いしながら、佳川の少し垂れた可愛らしい眉を親指でそっと撫でた。
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