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第109話

横溝 … …う…… …ああぁ… や、…やめ…っお願いだからっ! 嫌だっ!触るなっ……! !!!!! ねっとりと纏わりつくような悪夢からハッと目が覚める。 ドキン ドキン …… 冷たい汗…… はぁ…はぁ… … あ、見慣れない天井… ここは…俺の部屋のじゃない… あぁ…そうか夜中に佳川の部屋にきたんだった。 すぐ隣には口を半開きした佳川の寝顔… それを見つめながら、乱れた呼吸を整える。 …緩んだ顔…変なの… 頭部には痛々しい治療の痕が残っているのに、佳川の寝顔は無邪気で可愛らしいものだった。 … ふぅ…… 良かった…今ので佳川が起きなくて… 冷たくなった指先をきゅっと握りしめ再びベッドに横になる。 …やっぱりまだあいつの…細田の悪夢から俺は逃れられないんだ…完全にトラウマだ… 忘れたくても忘れられない。 大分良くなっていると思うけど、この強い記憶からは逃れられない…… 身体が…覚えている…… そう思いながら冷たくなった自分の指先を見つめ小さくため息をついた。 … 寒い… すると…そんな指先にあたたかいものが触れそれに包みこまれる。 瞳を閉じたままの佳川の手が自分の手を握りしめているのだ。 … 両手で包みこまれ、カイロのようにあたたかい。 じんわりと伝わる体温が酷く心地良かった。 「ふふふ…ひんやり気持ちいい……」 「……」 俺の手を握りしめながら佳川が呟く。 目蓋は閉じながらも表情はニヨニヨしている。 そしてニヨけた顔をしながら唇を尖らせ顔を近づけてくるではないか。その口元を手のひらで押さえた。…かかる吐息がまたさらに温かい… 「…何…キスしたいの」 「……むぐぅ…してくれないんですか?」 「お触りしたら寝れなくなる…見てるだけでいいって言ってたの佳川だよな」 「…言ったけどそれはさっきまで。今は違うんですー。一緒に寝てたら欲が出てきました。憧れの先輩にお近づきになれるチャンス…へへへ」 「お近づきって…一緒に寝てる時点で十分お近づきだと思うけど」 「えーそうだけど…って…へへへ…そうですね。考えたら十分かもしれない…横溝先輩と添い寝…マジ贅沢」 ふにゃっと笑う顔が本当に嬉しそうにしているので少し呆れてしまう。 何で… 「…何で…俺なんかを…俺のこと…もっと調べた方がいいぞ…そんな憧れるような先輩じゃないから」 そう一年前までは誰からも避けられ陰口を言われ、されるがままに同級生から暴行…陵辱されていたのだ…その事実は消えることはないし、今や学生達の格好の噂話のネタだ。 「…それは…それです。俺には関係ないんです」 「……」 「ごめんなさい。実はクラスメイトが教えてくれました。横溝先輩のこと…でも駄目なんですよ。あは、俺ってそんなことで気持ちが冷める男じゃないんです」

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