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第111話
「あ……美味しい…」
「ん?」
何とも言えない香ばしい香りに釣られ、佳川から貰った紙袋の中のパンを取り出し、その中の一つを食べてみた。
まわりは固く中はモチモチしていて…
「美味しいよ…このパン」
そう言って目の前にいる成谷先輩に、一口大にちぎったパンをアーンしてあげた。
「…うん、旨いな。香りがいいし、味も良い。千歳、どうしたのこれ」
「今日僕のこと助けてくれた後輩から貰ったんだ。お家がこの近所パン屋なんだって!凄いね」
ここは学生寮の最上階、成谷先輩の部屋だ。
成谷先輩と付き合ってからまだ一年経っていないけど、僕たちは変わらず仲が良い。
仲は良いけど先輩のカッコ良さは健在で、甘い雰囲気を常に漂わせているから未だにドキドキしてしまう。
そんなに漂わせなくてもカッコ良いからやめてと先輩に注意したことがあったんだけど、どうやら自覚がないらしい。
「甘いの嫌…?」
少し困りながら笑顔で迫られて…そのままベッドに押し倒されてしまったことがあった…
…は、恥ずかしいな…
ああ言うときはどう対応したらいいのかわからない。
現に今も意味もなく後ろから髪を撫でられていて僕はされるがままになっている。
…嬉しいから良いんだけどさ。
「バタールにカンパーニュ、エピもある…明日朝食で食べようか。サンドイッチにしても美味しそうだな」
付き合うようになってから成谷先輩は僕の食生活を心配して朝ごはんや晩御飯を良く作ってくれるようになった。
なんかもう少し太って欲しいみたいで、試行錯誤している。
「へぇ…サンドイッチかぁ。食べてみたい…レタス抜きで」
「…おい…まぁ良いけど。千歳が食べ物に興味を持ってくれただけで嬉しいよ」
「ここの寮やランチルームのパンより美味しいのはわかるよ。クロワッサンも食べてみたいなぁ…って…あの……ちょっと?」
髪を撫でているはずの手が、いつの間にか僕の腰に移動していて、スススとシャツの裾をパンツから引っ張り出している。
そこからするりと侵入してきた指が素肌に触れてくすぐったい。
腹を撫でてわき腹に優しく触れてくる。
ざわざわと肌が敏感に反応しはじめ……焦る僕がいる!
「……朝までにお腹空かせようか?」
「……」
「運動していっぱい食べてもっと太らないと、な?」
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