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二度目の失恋

桜井さんはショックだったのかかちーんっと固まってしまった そ…そうだよな…その…俺にあこがれてくれてたわけだし…フラれたのにさらにこんなこと教えられてもショックだよな… ………俺が言うのもなんだけど… 銀は珍しく真面目な顔して俺を支えながらちづちゃんの様子をうかがってた ………いきなりキスするなんてって怒ってやろうと思ってたのに…怒れなくなるだろばか… こんな時なのに胸の奥がきゅんっとなってしまった 「……ぅ…ぁ…」 「……?…」 「…え…と……えと…」 桜井さんがハッとしたようにやっと動き出す うんうんと唸ってまたぐるぐると頭を悩ませていた そしてパッと顔を上げる 「…えと……ぴ…ぴんくのひとと…す、すぎたくんは…両方男の子だけど恋人、なの…?」 「せや、ゲイとかバイとかホモとかまぁいろいろ言い方はあるやろうけどな」 「…ふぇぇ…?」 桜井さんはぷしゅーっとオーバーヒートしたみたく顔が真っ赤になっていた 銀が俺の方に視線を向けて俺にもなんか言えって目で言ってくる さっきから銀が答えたり説明したりばっかりで俺は一言も発してない…俺がちゃんと伝えなきゃいけないのに…ちゃんと言わないと… 銀に視線を返すともう大丈夫そうやなってそっと俺の体に回してた腕を解いてちょっとだけ桜井さんの方に背中を押してくれた 「あの、さ…さくらいさん…」 「は、はひっ…!?」 桜井さんがビクッとして背筋を伸ばす 思わず俺も背筋が伸びてしまった …どうせ上手になんて話せないんだ…だったら全部思ったこと言おう… そう心に決めて息を吸った 「え、っと……その、さ…告白…して、くれて……その…すごい嬉しかった…よ…」 「…………」 後ろでちょっとだけ銀がムッとした気配がする 「さ、桜井さんのこと…その…俺も好き…だし…今日も一緒に回ったの、も…楽しかった…」 「………」 「こんなこと言うのは、その…ズルい、けど………もし銀が転校して来てなかったら…『よろしくおねがいします』って言ってたかもしれない……」 「………」 「でも…銀はいるし…俺、は………銀が…好き…だ、から…」 本人の前で恥ずかしかったけど言わないといけないと思った 桜井さんの目はもう潤み始めて、涙がこぼれないようにとグッと唇を噛んでいる 胸がめちゃめちゃ痛かった 桜井さんを今、自分が傷つけている罪悪感に押しつぶされそうだった… でも…それでも大事だから……もし誰かを傷つけることになっても何よりも大事だから…… ゆっくりと口を開いて続ける 「可愛くないし、優しくもないし、なんか偉そうで、いっつも余裕そうで腹立つけど…好きなんだ…」 「………」 「………ごめん…」 桜井さんがギュッと俺のパーカーを握ってうつむいた 前髪で顔が隠れてしまって見えないけど涙が一滴だけキラキラと光って地面に吸い込まれて行ったような気がした 桜井さんの小さな肩がぷるぷると震えて小さな嗚咽が漏れ始める 綺麗な花柄の浴衣のすそをきゅぅっと握りしめて唇を噛んでいた そんな桜井さんは今にもしゅるんって溶けて消えていってしまいそうなぐらいに儚く見えた 「……ッ…」 そんないじらしい様子の桜井さんに思わず手が伸びかける でもそんな俺のもう片方の手を銀がきゅっと握った 唇を噛みしめる ………桜井さんの気持ちに応えられない俺がなにか声を掛けたところで余計に失礼なだけだ… 桜井さんの小さな肩に伸びかけた手をゆっくり引っ込んだ 銀にそのまま手を引かれた 小さくて、吹いたら消えてしまいそうなぐらい儚い桜井さんに胸が痛んだ 「………浴衣…似合ってるよ…」 「…………」 最後にそう言ってそのままその場を後にした

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