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若葉ちゃんなんて…

「……運転手さん、ここの住所までこの子連れてって、お金は…これぐらいでいい?おつりいらないから…」 「え、こんなに…」 「いいから早く行って?」 「は、はい…」 「ばいばい、にょあしぇんぱい…」 「………」 「にょあ、しぇんぱい…」 「………」 ちょっとだけ寂しそうな顔をする若葉ちゃんをタクシーに押し込めて帰らせた こっちに向かってばいばいと手を振る若葉ちゃんが小さくなっていく 「………はぁ…」 深いため息が出た もう言い逃れできない… 家の中に戻ろうと振り返ると玄関のところでにやにやと勝ち誇った顔の金さんが立っていた 黙ってその横を通り抜けようとする 「ねぇ、ハーフくん、どうしたの?」 「………」 「オレが若葉ちゃんとちゅーしようとしたら突然若葉ちゃん連れてどっか行っちゃってさ?」 「………」 「オレ若葉ちゃんとちゅーしたかったな…」 これ見よがしにとそんな事を言ってくる わかってるくせにホントたちが悪い… 「あぁ!!もしかしてさ!!ハーフくんやっぱり若葉ちゃんの事好きって気付いちゃった?」 「………」 「…へぇ~…ハーフくんがねぇ~…」 芝居がかった調子でそんな事を言う金さんはにまにまと嬉しそうだった グッと唇を噛む なんだか負けたような気がして悔しかった でもそこで負けたようにしおらしくするのなんて性に合わない… 悔しさを表に出すなんてprideが許さなかった 「………か…?」 「ん?なぁに?ハーフくん?」 「…好きになっちゃ悪いですか?」 「………」 金さんを睨み返してできるだけ笑顔でそう言ってみた この人に弱みを見せるなんて許せない すると金さんは少しだけ驚いた顔をしてからまたあのニヤニヤ笑いに戻って「いや、全然?」なんて言った 絶対に落としてみせる…若葉ちゃんなんて…… 今までどんなrichな人でも、どんなにbeautifulな人でも俺が頼んだらなんだってしてくれたんだ…若葉ちゃんぐらい落とせなくてどうする… なんでかすごくイライラしてたけど胸にあったモヤモヤは消えてスッキリした気分だった

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