684 / 1015
オレの未来のオカン
「あら、学?帰ったの?あらー、そっちの子はお友達かしら?今の子は可愛い頭してるのねぇ」
まなん家に行ったら明るくて優しそうな感じの女の人が出てきた
クルクルした黒髪を後ろで一つに束ね、薄く化粧をしてエプロンをしていた
こぎれいな感じはするけどもう40歳は過ぎてそうだ
ちょっときれいな普通のおばさんって感じ…
「あ、そうだ、ちょっと学聞いて?このあいだねお父さんの会社に新しく人が赴任してきたんだけどそれがあの山下さんだったのよ~、ほら、学覚えてないかしら?小さい時一度山口の方でもお父さんと一緒になった事があってよくかわいがってもらってたじゃない?」
始めはこの女の人はまさかまなの浮気相手で、童貞卒業より処女喪失が先なんて言う特殊な経験をしたせいで性癖が狂って熟女好きになったのかと心配したけど、まなに浮気をする勇気も、それをオレに隠し通せるほどの器用さもない事はわかっとるからそんな心配はすぐに消えた
むしろ一番考えられるのは…
「あ、立ち話も悪いわね、ごめんなさい気が利かなくて~、ほら学後でお菓子持っていってあげるから上行っときなさい上!!」
「か、母さん…?」
まなのオカンや…
まなの浮気相手なんて考えよりよっぽどしっくりくる
そしてやっぱり彼女はまなのオカンやった
良く見てみれば天パの感じや目がくりっとしとるところがそっくりや…
「何言ってるの学?お母さんよ~、あ、もしかして綺麗になっててわからなかったかしら?そうなのよ~実はねまつ毛パーマっていうの?してもらったのよ~」
「母さん!?」
「そんな驚くほど変わったかしらねぇ~」
まなのオカンは自分のまつ毛を摘まんで頬に手を当てて笑っとった
息子よりは楽観的な考えの持ち主らしい
まなはしばらくおろおろして俺とおっとり笑う自分の母親を見比べとったけど一回はぁ…っと深くため息をついて口を開いた
まなのオカンは「学~幸せが逃げるわよ~」なんてまた楽観的…と言うか適当な事を言ってる
「えっと……銀、これうちの母さん…で……母さん、こっちが………」
「…?」
「えっと…」
まなはそこで黙ってしまった
俺をなんて親に紹介するか迷ってるらしい
まぁそらそうやわな
突然何の心の準備もなく親に『男と付き合ってます』なんてなかなか言えんし…
まなのオカンは突然黙ってしまった息子の様子に首をかしげていた
…………しゃあないなぁ……
ふぅ…っと息を吐いてとっさに笑顔を作る
出来るだけ年上の女の人にウケそうな子供らし過ぎずそれでいて無邪気な感じで柔らかく笑ってみた
「オレ、頬付銀って言います、ほっぺたの頬に付属の付、名前は銀色の銀でそのまま銀です、2年の初めごろに転校して来てそれ以来杉田くん…息子さんとは仲良くさせていただいてます」
「!!」
「あら~…学の母の美登里です~」
笑顔を崩さず、かと言って業務的過ぎずをキープして話す
いつも『杉田くん』って呼んでてとっさにそれが出てしまった感も忘れない…実際はまなの事『杉田くん』なんて呼んだの数回だけやけどな…
もちろんちゃーんと標準語で喋った
まなは突然にこにこしてぺらぺら自己紹介しだしたオレにビックリしている
まなのオカン言うたら将来的にはオレのオカンや、第一印象は大事にしたい…
未来のオレのオカンこと美登里さんはじーっとオレを足の先から頭の上まで眺めて『あらあらぁ~』なんて言ってた
笑顔は崩さない
「きれいな子ねぇ~…学もお母さんの子だから出来が悪いなんてことないけど上には上がいるものねぇ~」
「………」
「………」
まなが隣でぼそっと『詐欺だ…』なんて言ったけど気にしない
美登里さんは相変わらずオレを眺めていた
「かっこいいわぁ~頬付くん…?って言ったかしら?モテるでしょう?」
「いえ…そんな…」
モテます
「そう?私が後20歳若かったらほっとかなかったわよ」
「光栄です」
お宅の息子さんとお付き合いしてるんですけどね
「あ、ごめんなさいねじろじろ見ちゃったりして、最近の若い子なんてあまり見ないから…」
「いえいえ」
美登里さんはそう言うとオレにスリッパを出して家にあげてくれた
オレの隣に立って『大きいわねぇ~足だけで私のおへそぐらいまであるわ』なんて言ってる
まなはもう完全に不貞腐れモードになってブツブツ言いながらついて来た
せっかく人が助け舟出してあげたっちゅうのに~
いまだにニコニコと笑顔を崩さず2階に上がらせてもらおうと思ったら美登里さんから声が掛かった
正確にはまなにやけど
「あ、そうだ学~、お父さんも今日あとで帰って来るから…頬付くんもよろしければ晩御飯どう?」
「ほんとですか?ありがとうございます、いただきます」
「ふふっ、こんなカッコいい子に食べてもらえるなんて幸せねぇ~おばさんがんばっちゃうわ」
「………」
そう言って美登里さんはリビングに消えた
「………」
「………」
まながどすどすと音を立てて階段を上がる
あーあ、不機嫌になっちゃった
ともだちにシェアしよう!