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タイミング
テレビの中の男が喋る
『彼と出会ったのはもう7年前で…その時は自分が同性を好きになるなんて思ってませんでした』
自分の隣にいる同じ指輪を付けた男の手を愛おしそうに握ってはははっと笑っている
幸せそうな顔をしとった
…それとは反対にオレの隣に座るまなは不安そうな顔でオレの小指をきゅっと握っている
テレビの方はというと画面が移り変わってスタジオで人気の芸能人たちがさっきの動画についてのコメントを述べていた
『海外だとあんなに堂々と公表してる方が多いんですね~』
『日本では珍しいですもんね~』
おバカが売りのアイドルと番組の司会を務めているアナウンサーが会話している
まなはハラハラした様子でテレビと自分の両親を交互に見ていた
まな、めっちゃ挙動不審やけど誰もそう思わないんやな…
まなのオカンがお茶を入れて台所から戻ってくる
あからさまに不安がるまなの手を握ってやるとまなも少しだけ握り返してきた
「私同性の人が好きって人見たことないわ」
「……俺もだ…」
「やっぱり日本じゃ珍しいのかしら?そうそう身近にはいないわよねぇ~…あ、でも山下さんはこの間デパートで見たって言ってたわ」
「……そうか…」
「………」
「………」
まなの顔がひくっと引きつる
手にもじんわりと汗が滲んでた
まさか一番身近な自分の息子がそうやとは思わんやろうなぁ~…
その後もまなのオカンの話は続く
「やっぱり実は結構いるけど言い出しにくいってだけなのかしら?外国と違って日本だとたいへんそうだものねぇ~」
「………」
「………」
「でもそう考えると日本の同性愛者の人は生きにくいわよね、言葉が違うから安易に海外に移住しようとも思えないし…だから今度そう言う条約が認められるのかしらね~」
「………」
「………」
「ちょっと、お父さんも学も何か言ってよ、寂しいじゃない」
「……そ、そうだね…?」
「……そうだな…」
「もうっ」
まなのオカンはわざとらしくぷうっと頬をふくらまして拗ねたふりをした
まなはもう顔が真っ白になっている
そしてまなのオカンの次の一言が決定的だった
「でも…やっぱりねぇ~…特殊、って言うか…ちょっとアレだものねぇ~」
「………」
「………」
その一言でまなはもうそのまましゅーんと消えていきそうなぐらい小さくなってしまった
しかもダメ押しとばかりにオカンが口を開く
「あら?そう言えば学さっき何か言おうとしてなかったかしら?」
「…え…」
「ほら、お母さんとさっき被っちゃって…なんだったの?」
「あ……え、っと…その……」
「?」
まなの顔がみるみる引きつってマンガやアニメやったらダラダラと汗が流れるエフェクトがかかりそうや……
オトンもオカンもまなの方を見ている
握った手を通してまなの心臓がどきどき言うとるのが聞こえてきそうやった
………まな、家でもついとらんのんやな…
そしてやっとまなが口を開いた
「え…っと……ごはん…おいしかったな…って……?」
へへっとまながなんだかぎこちなく笑ってそう言った
やっぱりちょっと挙動不審やったけど…
でもこっちもやっぱり気づかなかったみたいでまなのオカンはにこっと笑って嬉しそうにした
「そう、よかったわ~明日からもこっちにいる間はお母さん作るわね」
「……うん…あの…あんまりお腹すいてなくてちょっと残しちゃったんだけど…ごちそうさま…」
「あら~いいのよいいのよ、さっきお菓子も食べたものね」
まなは元気がないのを悟られたくなかったのかさっさと席を立ってしまった
後を追うようにオレも立つ
「ごちそうさまでした、晩御飯おいしかったです」
「ふふっ、おそまつさま、頬付クンもまたいらっしゃいね」
「はい、ほんとありがとうございました」
挨拶も早々にオレもリビングから出て部屋に戻ってしまったまなを追った
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