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お母さん

「お、おれっ!!銀と付き合ってるんだよ!!」 一瞬耳を疑った 自分の息子が発した言葉を理解するのに時間がかかった 学が?付き合ってる?『ギン』と? 『ギン』って誰かしら…?本間つばめちゃん似の子の名前なのかしら…? 一度動きをストップさせてしまった老いた脳を一生懸命に動かして『ギン』という名前を探した 『ギン』なんて女の子いたかしら…? もしかしたら私の知らない子かもしれないわ… ほら、学校の子とか…… 「え…っと……?だ、誰かしら…?ま、まさか頬付くん…じゃないわよね…」 「…え…あ、っや…えーっと……」 「お、同じ名前なんて、珍しい…わね…?」 学がまごつく この時点でもう私は何となく気づいていた どうしても思い浮かぶ人物は一人しかいない でも…あの子は… 「あ、のね……母さん………その、何となくわかってるのかもしれないけど銀だよ…あの銀と付き合ってるんだよ…」 「………えっと…お友達…としてじゃ…」 「そうじゃなくてね、恋愛感情で付き合ってるんだ……その、あんまり考えたことなかった…けど……ゲイ、とか…ホモとか……そう言うの…なんだと、思う……」 「……………」 「その…母さんたち…が期待、してたような…恋愛じゃ、なく…て…ごめん……」 「……………」 学はそう言ってうつむいた あの子は男の子だ…学だって… 「………」 「………」 「………」 口から言葉が出てこない なんて言えばいいのかわからなかった 学は男として男である頬付くんが好きなのだ 別に私もお父さんも恋愛するなとか高校生で彼女だなんてとか思ったりしないし私はむしろ進んで学に彼女がいたらいいな~と思ってた うちには女の子が生まれなかったからいつか学にできるお嫁さんに素敵なウエディングドレスを着てもらって式を挙げてもらうのが夢だった この際私のささやかな夢なんてどうでもいいがそれでも相手が男となれば話は変わってくる 真剣に付き合ってるって言うなら余計にだ やっとの思いで口を開いた 「ま…学……それはホントなの…?」 「……うん…」 「……頬付くん、男よ…その……一時だけの感情で男の人と付き合うとかって言うのは…その…」 「…………」 そう言うと学はなんだかムッとしたような顔になった 別に学が一時の感情で頬付くんと付き合ってるとかそういうことを言っているんじゃない ただもしかしたら学はそうなのかもしれないからしっかりと確認を取らないといけないと思った 「その…やっぱり世間体だってあまり良い物ではないし…それに…学だって大変…でしょ…?」 「……別に世間体気にしてるわけじゃないよ…」 「学がそう言ったって…やっぱり生きづらくなるじゃない…」 「…今だって周りに内緒にできてるし…そんなのわかんない…」 「わかるわよ…お母さん大人だもの……ねぇ、学…学、もう考えれない年じゃないでしょう?もうちょっと良く考えなさい…?」 だんだん学も私も語気が強まっていった すべて本心で学の事を心配して言っている言葉ではあるけど学の神経を逆なでる言わなくていいようなことまで言ってしまう お父さんだけが静かに机に肘をついて座ってた

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