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子供の成長
その頃杉田家では…
「…………あぁ…」
「………」
「………どうしましょう…」
妻の美登里が部屋の中をぐるぐると行ったり来たりしている
もう時計は夜の11時を回るところだった
「………す…座ったらどうだ…?…」
「……そうね…目障りだったわね…ごめんなさい………」
「いや…別にそう言うわけじゃ……」
「……はぁぁぁぁぁぁぁ…」
「…………」
美登里は大きくため息をついて机に突っ伏した
俯いたままブツブツと何か言っている
「……学に悪い事しちゃったわ…別に否定したかったわけじゃないのよ……頬付くん良い子だもの……きっと幸せよ……世間体が悪いなんて言いたかったわけじゃないの…ただ…ちょっとびっくりして…ちゃんと確認をと思ったのよ……あぁ…そんな事言ってるけどホントは嫌だと思ってたのかしら…?…自分の息子を気持ち悪いって…?……私って嫌な女だわ……」
「…………」
「ねぇ…そう思わないお父さん…?」
「いや…そんな風には…」
「あぁ…やっぱりそうなんだわ…」
「……いや…別に学だってそこまで思っては…」
「そうよね…学だってそう思ってるんだわ…」
「………」
返す言葉がない…
美登里は昔からそうだった…悲観的というか…少し考えすぎなところがある…
普段たいていの事には楽観的でおおらかな反動なのかもしれない
こういう時は何を言っても聞かないのだ
「あぁ……学があんなに怒るなんて…でもそうよね…好きな人とのことを否定されたんだもの…怒って当然よね……でもホントに否定しようなんて思ってなかったのよ…ちょっと気持ちが高ぶっていっちゃって…あぁでも………」
「………」
たしかに学が大きい声を出したのには驚きだった
昔からよく泣く子ではあったけど、どちらかと言えばおとなしい方の子だった…
本当は嬉しかったのに幼稚園の先生に抱かれては不機嫌になり、本当はおいしかったのに照れくさくて女の子に貰ったクッキーの味を普通って言ったりしてた
実の親が言うのもどうかと思うが誰に似たのか人見知りする少し不愛想な子だったと思う…
ホントに嫌がってるわけではなくてただ褒められると照れてしまってどうしたらいいかわからなくなってしまうだけだったのだけれど、そのことと親の仕事の関係で転勤が多かったこともあってあまり友達が多い方ではなかった…
でも別に誰かと遊ぶのが嫌だったわけではなくてたまに友達と遊ぶ約束をしてきた日はどことなく嬉しそうで夜もなかなか眠れないようだった
緑色の昔美登里がクマだと言って作ったブサ……個性的な人形を嬉しそうに抱いて「ぱぱ…あのね、あしたね…しおりちゃんとあそぶんだよ」って言ってきた時の事は今でも覚えてる
我が子ながらちょっと恥ずかしそうにしてでも頬を上気させていたのが可愛かった…
懐かしい…
そんな学も成長して小学生になり中学生になっていったけど目立った反抗期もなく美登里から苦言を聞いたこともなかった
それは高校三年になった今も変わらず学があんなにはっきりと言い返してきたのは初めての事だった
学も成長したんだなぁとしみじみ思う…
頬付くんとのことは正直びっくりしたけど…
「はぁぁあぁぁ…」
美登里がまた大きくため息をつく
きっと学だって少し頭を冷やしたら戻って来るだろう
美登里の言ってた事は確かに少し強い口調だったかもしれないけれど間違ったことは言っていないしそれがわからないような子でも無い
机の上の冷めてしまったコーヒーをすすって息子の帰りを待った
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