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決心とためらい
若葉ちゃんとお昼を食べた…この時の俺は知らないけど学と銀くんが俺の事を『心配』して猛たちにも相談してくれたその日の放課後
金さんは帰って来た
なんだかルンルンして妙にご機嫌で気持ち悪かった
金さんは家にいる時は服を極力着たくないタイプらしくって帰って来るなり服を脱ぎだしてそれらを洗濯物のカゴに放りこむとはぁ~あ~っと大きく伸びをしてベットに潜り込んだ
この人は野良猫か何かなんだろうか…
いや…猫なんてかわいらしい言葉で形容されるような人間ではないけど…
金さんはベットでゴロゴロしながらスマホを弄ってる
たまーにこっちを見てはにこーっと笑ってなんだか意味深な感じだった
「……なんか良いことでもあったんですか…?」
「ん?ふふー、気になる?」
「……とくには…」
なんだか聞いてほしそうな顔がウザったかったので声を掛けてみたがどっちにしろウザいことに変わりはなさそうだった…
特に気にならないって言ってるのに金さんは話し出す
「ふふっ、ちょっとね?昨日銀に泊めてもらったんだけど、面白かったんだ~」
「……へぇ…」
「学くんなんかすごい面白い顔しちゃって…」
「………」
自分から話し出したくせに主語がなく確信を得ない返事だった
…まぁ…別にいいけど……
はぁ…っと溜息をついて手に持っていた書類に目を落とした
mamaがこのあいだ『本当にイギリスでmamaと同じ仕事をするなら参考に』ってくれた資料だった
わざわざmamaの事務所の人が作ってくれたんだって
そこには俺にどんな仕事をさせたいとか、こういう仕事ならguaranteeはいくらだとか、もしこの路線で行くならこっちなら…といろんな俺についてのproduceの計画が書かれていた
始めはいろいろ慣れないことも多いかもしれないと思ってなのかmamaと一緒にやる仕事プランもいくつかあった
そして最後には『We want to see you soon.』と手書きで書かれていた
仕事も新人にやらせるような仕事じゃないだろって思うぐらい目立つものが多かったしこんな風に持ち上げられて悪い気はしない
あれからそれなりに真面目に考えてみたりもしたけどイギリスでモデルをやることが俺の人生にとってそこまでのデメリットにはならなさそうに思えた
だって俺beautifulだし…mamaの写ってる雑誌とか見ても俺よりhotなのなんてほとんどいない…っていうかいないし…
あ、mamaは別だよ
でもこうやって自問自答して『よし、モデルをやろう、イギリスに行こう』と決心するたび若葉ちゃんの顔が浮かんだ
なんでここで若葉ちゃん…と自分でも思う…
いや、なんで若葉ちゃんかは自分が一番よくわかってるんだ
それが余計に腹が立つ…
こうして決心してはためらい、また決心してはためらいを繰り返してもう数日mamaにちゃんと返事を返せていないままだった…
mamaはもう今週末には向こうに帰ってしまう…
早く本当に決心しなければ…
ふうっと息を吐いてもう一度書類に目を落とした
そんな俺を金さんが楽しそうに後ろから見ていた
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