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もう一回会えるよ
とうとう今日になっちゃったッス…
「~で…この前置詞は…」
「………」
先生が黒板の前に立って授業をしてたけどそんなのほとんど聞いてなくてぽけーっとしながら窓の外を眺めてた
良い天気ッス…
ぴよぴよぴよって鳥が鳴く声がした
あと少しでノア先輩行っちゃうッス…
改めてそのことを頭の中で確認する
いなくなっちゃうッス…
首をかしげる
当日になったというのにまだ実感が湧かなかった
それとも…もしかしておれもう実感してるけど特に悲しくないんスかね…?
首をさらに傾げて胸に手を当ててみた
このあいだは心臓がつぶれるんじゃないかってぐらい痛かったのに今は何ともなかった
「………?」
なんだか変な感じだった
再度窓の外に目を向ける
屋上の方を見ると先輩といつもお昼を食べてた小屋が見えた
あそこでいっぱいお話もしたし、ご飯も食べたんス…
「おーい、辻ー、ボーっとしてんなー教科書ぐらい開けー」
「………」
「……なんだ?今日は言い返して来ないのか?それはそれで気持ち悪いな…」
「………」
先生がそう言うとクラスメイトがどっと笑った
いつもならおれも一緒になって笑うのにそんな気分にもならなくて余計に変な感じだった
一通り笑いが収まるとまた先生が授業を再開する
そんな時後ろの子がおれに話しかけてきた
「うわ、おい辻、見てみ?校門のとこの車」
「……?」
校門の方に視線を向けると確かに真っ赤な派手な車が止ってた
おれとその子の会話を聞いて別の子も混ざってくる
「そう言えばなんか先輩が今朝派手な赤い車にシェリー・ラストンが乗ってたとか乗ってないとか言ってなかった?」
「嘘に決まってるだろ~、なんでこんなとこにシェリー・ラストンが来るんだよ……確かにあの車シェリー・ラストンが乗ってるならさまになるけど…」
「それがさ、なんか聞いた話だから良くわかんないけど志波ノアって先輩いんじゃん?」
「あぁ、あの頬付先輩と同じぐらい顔綺麗なのにゲイの…」
「そう、ゲイの…なんでもあの先輩の母親がシェリー・ラストンなんだって…」
「うっそだぁー」
「おい、どうなんだよ辻、お前志波ノアと仲いいだろ?」
「……それは…」
「あれ?おい、アレ噂をすれば志波ノアじゃね?」
「!?」
話してた子の一人が窓の外を指差す
すると確かに生徒用玄関から校門の赤い車に向かって歩く人影が見えた
金色の髪が日光に当たってきれいに光っている
ドクンと心臓が鳴った
だって…まだお昼じゃないッス…まだ…ノア先輩は……まだ……
ドクンって音が早くなって嫌な感じに胸がキュウッとしてきた
だって……まだ…
「あっ、おい辻!?」
「おい、授業中だぞ!!」
気付いた時には走り出してた
ノア先輩、もう一回会えるよって言ってたんス…その時にちゃんと言うつもりだったんス
連絡先も聞いて、連絡してくださいねって言って、また遊びに来てくださいって…
気づいたら視界が滲んで前が良く見えなかった
ノア先輩!!
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