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お姉ちゃん
「あぁ~ん、ぎん~まってぇ~♥」
「…っはぁ…はぁ…」
「無視はやめてよ!!」
まなのはいとったのよりもさらに5cm高くて見るからに走りにくそうな靴で器用についてくる兄貴を無視してきょろきょろと辺りを見回す
ちょうどさっきあの三人組と別れたところまで戻ってきていた
まなとはぐれたの…この辺りなんやけど…
俺の後ろでは兄貴がわざとらしく『あんっ♥』って声をあげてこけとった
さすがにあの靴で走るのは少し辛かったらしい
『いたいぃ~』なんて声をあげて構って欲しそうな顔でこっちを見とるけど無視や…
こいつに構ってたらきりがない…
「あ、あの…大丈夫ですか…?」
「あっ♥ありがとうございますぅ~♥」
そんな兄貴を女と思った男が下心丸出しで兄貴に手を差し出す
兄貴はしなを作ってわざとそいつに寄りかかりながら立ちあがっとった
男の手が兄貴の腰にまわっとる
………きも…よくあんなん許せるな…
はぁ…っと溜息をつきながらまなの顔が浮かんだ
……まなだってこんな風になっとるかも知らん…
ざわっと嫌な感じが胸に広がった
急がんと…
「あの…もしよかったらせっかくですし…その…お茶でも…」
「あっ、ごめんなさい…私その…ほら…?」
後ろでアホみたいな茶番が繰り広げられとる
兄貴はお茶に誘われると意味深な視線をオレに投げかけて喜々として『ごめんなさいね?』と男にあやまっとった
何が『ごめんなさいね?』や…そう言われるように自分から仕向けたくせに…
それに『ほら…』ってなんや…お前とそう言う関係やなんて思われたないわ…
かといってここでそいつと何のかかわりもありませんってわざとらしく言うわけにもいかずいたしかたなく無視を決めこんどった
そもそもお前のせいでまなとはぐれたんや
「でも……彼氏?こんなきれいな人が他の男に絡まれてるのに全然こっち見ないよ?そんなやつほっといてさ…」
「えっ…っわ…ちょっと…」
「ほら、こんなくっついてるのにこっちすら見てない…」
「近…離し…ッ銀!!」
でも兄貴の予想よりも質の悪いやつやったらしく珍しく兄貴は少したじたじしとった
……知るか…別に自分で逃げられるやろ…
「ちょっと…ホントイヤ…離して…」
「あの人、ホントに彼氏なの?名前呼んでも全然こっち見てないよ?」
男も男や…そんな偽胸と化粧顔のどこがええんや…
兄貴もさっさと逃げえや…
だんだんその茶番にイライラしてくる
何よりさっさと兄貴を置いてまなを探しに行かない自分に一番イライラしとった
あー…もう…
がりがりと頭を掻いてから深呼吸して引き返した
しかもこんな人おるとこで…最悪…
「変なとこ触らないでよ…!!」
いまだに女のふりを決めこんどる兄貴の手をグイッと引っ張った
男の中でも充分背高い方やのにヒールなんかはくからオレより背高くなっとるやん…かっこつかへんし…
「いた…」
兄貴はよろよろとオレの方に倒れ込んできた
…化粧くさ……
男は豆鉄砲を食らった鳩みたいな顔をしとった
ビックリして口をパクパクさせとる
ビックリついでにもう一個ビックリさせたろ…
オレの首にわざとらしく抱き着く兄貴の頭に手を置いてそのまま髪の毛を引っ張った
ズルッとウィッグがずれて兄貴の元の髪が露わになる
「いたっ!!ちょっと銀地毛ごと引っ張らないでよ、お兄ちゃん禿げちゃ…」
「うっさい、次喋ったら頭皮ごと髪全部抜くで…」
「ひどい!!」
男の方はもう女のふりをすることをやめた兄貴を見て目を白黒させとった
「!?」
「阿呆、こいつ男やで」
兄貴はもうこの男なんて眼中にないみたいでべたべたオレの体を触ってきよる
周りの視線があつまっとるのを感じる…
ほんまに最悪や…
「あ…う…」
「………」
男はそのまま声にならない声をあげてどこかに走って行ってしまった
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