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始まってすらいません

この時のオレは知る由もないが頬付先輩と学さんがひと段落したとこでさかのぼること数時間前… 「猛!!次あっち行こう!!」 「はい」 「猛!!今度あれ食べよ!!」 「……はいはい…」 「猛次はあれ乗ろう!!」 「………」 紺庄先輩は元気いっぱいで遊園地を駆け回ってた 目についたお店に飛んで行き、おいしそうな屋台があれば食べ歩き、乗りたい乗り物を片っ端から乗って行った 始めの方は平気で走り回り声を出してはしゃぐ先輩が男だってばれるんじゃないかって先輩以上にオレが気を揉んだりしたけれどそんな事は今のところ全くなかった 先輩…かわいらしい顔してるもんな… 声は確かに女の子にしては低いけれどオレが思ってる以上に気にならないことなのかもしれない 今はさっき見つけたマスコットキャラクターのキグルミに突進していってる… オレはもう着ぐるみを見てもアレ暑いんだよな…とか子供が遠慮なく股間とか狙ってくると辛いんだよな…とか供給者側の感想しかわかなくなってしまった… 「きゃー!!ねぇ!!猛もメッキーと一緒に写真撮ろうよ!!ハグしてもらおう?」 「オレは…いいッスよ…」 「えー…!!メッキーかわいいのに…」 ぶーっと先輩が口を尖らせる その隣でメッキーと呼ばれたキャラクターもほっぺたを押さえて不満そうなポーズをとった ………キャラを保たないといけないってつらいよな…結構高給だからやるけど… そんな同情をしつつ少し遠巻きに先輩とメッキーの様子を眺めてた 先輩はメッキーと抱き合い、メッキーの口とおもわれる部分を頬に当てられてキスされていた ……… メラッとなにか変な感情が芽生えた いや…そんなわけない…相手はキグルミだ………………中は人の… 一度そう思ってしまうとそうとしか思えなくなってしまった 手を繋いで写真を撮ってもらってるのも先輩が布一枚挟んで別の男の手と恋人繋ぎしてるような気分で胸の奥の辺りがざわざわした 「たける~おまたせ~…」 「……うす…」 「?…猛どうしたの?」 「いえ…別に…」 「?」 写真撮影を終えた先輩が戻ってきてもざわざわは消えなかった こんなにオレは…その…やきもちを妬くやつだっただろうか……… はぁ…っと自分にため息が漏れた 「変な猛?」 「………」 先輩はそう言うとパッとオレの手を取った 指を絡めていわゆる恋人繋ぎの形にする 「ふふー…今日は恋人繋ぎだってできちゃうよ!!」 「……ふふっ…」 恋人繋ぎをオレに自慢げに見せる先輩… なんだかタイムリーな話で笑ってしまった 「?なんで?なんで猛わらったの?」 「内緒です」 「えー!!教えてよー!!」 つないだ手をぶんぶん振ってそう言う先輩を見てやっとオレ自身も楽しい気持ちになることができた

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