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片道二時間半
「ほら健斗くん、これ昨日やった公式使うのよ、覚えてる?」
「あっ!!覚えてる!!できる!!」
「そうそう、そうやって…こっちに代入して…」
「待って待って!!できる!!言わないで!!」
「ふふふ、はいはい」
「………」
後ろでわいわいと勉強する紺庄先輩とその先輩の隣に座ってこっちにうらやましかろう?とドヤ顔する姉貴をちら見しながら夕食の準備を進める
最近先輩は良くオレの家に来て姉貴に勉強を見てもらってた
さすがにオレじゃ高3の範囲は教えられないし…
とりあえずお米をといで炊飯器にセットしながら晩御飯の献立を考える
先輩頑張ってるしな…何か喜んでくれそうなものを作ってあげたい…
ちょっと季節外れだけど母さんの実家から送られてきたトウモロコシがあるからそぎ落としてあげて天ぷらみたいにするかバターと焼いてコーンバターにしよう…姉貴と先輩と洋太と美香と理沙に聞いてどっちにするか決めよう…
「ほらぁ!!できたぁ!!」
「すごいすごい、先週はこれ全くできなかったんだもの!!健斗くんがんばったのねぇ~」
「えへへ~しずちゃん先輩に言われた通り家でもちゃんと勉強したよ!!」
「偉いわぁ~これならきっと第一志望にだって行けるわよ」
「ほんとう?やったぁ!!」
「このまま頑張れば、ね」
「おれ、頑張るよ!!」
先輩はこの辺から少し離れた場所にある大学に入りたいらしい
片道電車乗り継いで二時間半ぐらい…
会えない距離じゃないけど気軽には会いに行けない…
先輩のご両親ももし受かれば先輩は一人暮らしかなって言ってた…
智也さんとかその話しただけで半泣きだったけど…
「………」
「ホントすごいじゃない健斗くん!!こっちも正解よ!!」
「わーい!!やったぁ!!」
「じゃあ、今度はこっちね?ちょっと難しいけどこれが終わったら今日はおしまいね」
「わかった!!」
オレの後ろで先輩は姉貴に褒めてもらって気分が良いらしく『よーしっ!!』と張り切って続きに取り組んでいる
先輩は寂しくないんだろうか…
先輩はオレの前であまり進路とかそう言う話をしない
学年が違うから気を使ってくれてるのかなとか思うとオレから聞くこともできない
実は先輩が目指してる学部や大学を知ったのも紺庄先輩からじゃなくて学さんからだった
たまに聞いてみても「うん…」とか「悩んでるの」って言うだけの先輩に不安を感じて学さんに相談したらあっさり教えられてびっくりしたのを覚えている
後で先輩に聞いたら実際本当に悩んでてでもオレに相談するのは学年も違うし適任ではないと思ったかららしく隠してたつもりはなかったと言っていた
こっちが申し訳なくなるぐらい謝るから別にそんな怒ってるわけじゃないんですよと言ってたしなめた
「お疲れ様~健斗くん、じゃあ今日はこれでおしまいね」
「はぁ~よかったぁ~つかれた~」
「ふふっ、健斗くんもちろん晩御飯食べて行くでしょう」
「!!食べる!!」
「このあいだトウモロコシ貰ったから多分トウモロコシよ」
「トウモロコシ!!好き!!」
そう言うとべたーっと机の上に上半身を投げ出して伸びていた先輩が飛び上がってとととっとオレの傍にやってきた
オレがいま準備しているものが味噌汁だと気づいて口を開く
「今日おかずトウモロコシ?」
「はい、先輩天ぷらとコーンバターどっちがいいですか?」
「コーンバター!!」
先輩がにかっと笑ってそう言う
その顔を見ると先輩がどう思ってるかとか片道二時間半の時間とかどうでもよく思えてくる反面やっぱり離れたくないなって気持ちもわいてくる
コーンバターコーンバターと連呼する先輩の頭を撫で冷蔵庫からバターを取り出す
やっぱり…あまり離れて欲しくないな…
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