903 / 1015

『銀』と付き合うということ

朝学校に登校して教室に行くと異様な雰囲気が漂っていた まだ俺の事が悪い意味で気になるんだろうとそう解釈して気にも留めなかったがすぐにそれは違うことに気付いた 「………」 「………」 教室中からざわざわと声が聞こえる 皆こっちを見て何か話してた 俺は自分の机の前に立ち尽くしたまま動けなかった 「……な…なに…こ、れ…」 俺の机はひどいありさまだった 机にマジックで大きく『ゲイ』と書かれていてその脇にも『ホモ』とか『キモい』とか大量に罵倒が書き連ねられていた 机の足なんかにも悪口が書かれた紙が貼りつけられている 「……クスクス…」 「クスクス」 誰かが笑っている声が聞こえた 胸がいたい、苦しい… 「………ッ…」 悔しくて思わず涙が出そうになった でもそんな女々しいとこを見せるなんて相手の思うつぼだ 唇を噛みしめてこらえて机に貼られた紙をはがし始めた 今ここには健斗も桜井さんたちもいない…銀もいない… 別に縋ろうと思っていたわけじゃないけれど心細く感じた 皆遠巻きに眺め噂したり話したりしているだけで誰一人として俺を手伝ってはくれない 惨めだった… 「………」 黙って黙々と作業を続ける こんなことされるなんて思っても見なかった… こんな風に具体的に手を出して来るなんて…… 言われるだけならと思って今朝頑張るんだって決めてきたばかりなのに… 貼られた紙には『ホモ』『ゲイ』なんて単語のほかにも『アバズレ』や『ヤリマン』『ビッチ』なんて卑猥で下劣な物も多く含まれていた それらを剥がすたびに手が震えていて情けない 机に直に書かれたものは油性マジックで書かれているみたいで洗剤を付けてひたすら擦るしかなさそうだった 雑巾を取ってこないとと顔を上げた時廊下に昨日の朝俺を問い詰めに来た女子の顔が見えた 満足そうに笑顔をたたえていた そこで俺は誰が何のためにこんなことをしたのかわかったような気がした そしてその時ようやく俺は『男』と付き合うことだけでなく『銀』と付き合うことの辛さを理解した 銀… 持って来た雑巾で『キモい』という文字をごしごし擦る 頭には銀の顔が浮かんでいた ……だ…大丈夫…… 何も大丈夫じゃなかったのにその時の俺はうまく状況が呑み込めずまだ混乱する頭をなだめるためにそう繰り返すしかできなかった

ともだちにシェアしよう!