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ただそれだけの事

その後も俺への嫌がらせは続いた 始めは机への落書きや、靴の盗難、下駄箱にゴミを入れられたりと犯人がしっかりわからない物ばかりだった クラスの奴らの中にはやりすぎだなんて同情している奴もいたみたいだけれど健斗以外は誰も俺に話しかけてこなかった でもそんな俺を見てゴミを片づけたり靴を探すのを手伝ってくれようとした健斗にも俺とばっかりいると健斗も浮いてしまって嫌がらせの標的になりかねないと思って断った 健斗はそれでも手伝ってくれようとしたけど厳しく言うとそれ以降は心配そうな顔をしつつも手伝いには来なくなった 銀はあれ以来学校に来ていない でも銀の机に落書きしたりしないとこを見るとやっぱり『男同士』だからというより相手が『銀』だから、なんだと思う 「……クスクス…」 「ふふふっ…」 また女子が笑う声が聞こえる 教室の隅からこちらを見ていた久遠さんが顔をしかめ、桜井さんが自分の事のように悲しそうな顔をしているのが見えた 男の俺がこんなこと言うのも女々しいとか弱弱しいって思われて嫌がらせされる原因なのかもしれないけれど、俺にはそんな女子たちの笑い声が怖かった 不特定多数に目に見えない形でこんなことされるなんて思っても見ていなかった ただ好きになった人が銀だったってだけなのに… 女の子たちが銀を好きになるのと同じように…桜井さんが俺を好きになってくれたのと同じみたいに… その相手が偶々銀だっただけなんだ… それがそんなにいけないことだとは思えなかった やっぱり男だからなんだろうか…男のくせにモテて男女問わず人気のある銀と恋人関係にあるからこんな風に嫌がらせされるんだろうか… 思わず涙が滲みそうになった 慌てて唇を噛んで耐えるけどその様子を見られていたらしい 「だっさ…」 「ね、さっさと別れればいいのに…」 そんな言葉が聞こえる 「ていうか頬付クンしばらく来てないしさ…」 「あいつ捨てられたんじゃね?」 「かわいそー…」 ………俺は銀を信じている… 震える手とどくどくとやたらと大きく聞こえる心臓の音を聞きながらそう心の中で反芻した だから…何を言われても耐えると決めたんだ… もし…もしこれで耐えきったら…銀とのことをみんなに認めてもらえるなら… だから何を言われても黙って耐えた 銀への罪滅ぼしじゃないけれど認めてほしいと思った きっとその方が銀も喜ぶ…… ぎゅうっと手に握った雑巾に力を込めた そう…きっと銀も喜んでくれるから… そう思ってごしごしと机に書かれた文字を擦り続けた

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