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弱虫な彼女

「………」 廊下を歩きながら最近の出来事を考えていた… ぽわんっと頭の中に私の事を『ちづちゃん』って呼んで人気者なのによく気にかけてくれるピンクの人と、私が告白した後も気まずくならないようにって気を使ってくれる優しい杉田くんの顔が浮かぶ ……二週間くらい前かな?…突然ピンクの人と杉田くんが付き合ってるって噂が流れちゃって…それでピンクの人は『そうだよ』っていっちゃうし…そしたらピンクの人の事が好きな女の子達が怒っちゃって…杉田くんはいっぱいひどいことをされるようになった… …それで、ピンクの人はしばらく学校に来なくなって、杉田くんは毎日靴下のまま教室に来て、いっぱいひどいことが書かれた机に座って、無くなったものを探したり、机をきれいにしながら過ごしてた… そんな杉田くんを見てると胸のとこがきゅうってなって辛くてお手伝いしてあげたかったけど夏輝ちゃんがやめた方がいいって… そしてこのあいだピンクの人が学校に来た 私はホッとして…きっとピンクの人が杉田くんを助けてくれるって思った… 本当に良かったなって思ったの……でも…… 「………」 思い出してふっと気分が暗くなった ピンクの人は杉田くんを見てなんでか怒った顔をして杉田くんをどこかに連れて行ってしまった そして一人で戻ってきて、しばらくするとしゅーんとした顔で目が赤い杉田くんが戻って来た 二人はそれ以来口をきいてない 「……うーん…」 困ったなぁ… 女の子たちはなんであんなに杉田くんをいじめるんだろう…いじめてもピンクの人が女の子の事を好きになるわけないのに…… いっつも平均点しか取れない私が一生懸命考えてもそれはわからなかった 杉田くんはあまり嫌そうにしてないけれどいいのかなぁ… 私が考えても何かできるわけじゃないし、怖くて杉田くんの机に落書きする女の子たちにやめなよとも言えないけれどでも力になってあげたいな…なんて… だって杉田くん…今きっと困ってる… いつも疲れきった顔をしてぼんやりするようになってしまった杉田くんを思い出すと胸が痛んだ ちょっとだけ仲良くなって、杉田くんがくるくる表情を変えてくれるのが面白くて好きだった… だから…せめて杉田くんにすこしでも元気になってほしいと思った… 「………」 そんな事を考えながらぼーっと歩いていた すると突然何かが聞こえた 「ッう…うぅ…」 「!!」 お、おばけ!?もう冬なのに!? ぴゃっと飛び上がって一瞬逃げようかと思った でもその声に聞き覚えがある気がした… そっと声のする方に近付く 「……つ、うぅ…うぁ…」 「………」 泣いてるの…? 声はあまり人が使わない階段の裏っかわから聞こえるみたいだった やっぱり…この声って… そっと階段の影に身を隠してそこから顔をのぞかせてみた 「っぐず…うぇ…ぎ、ん…ぎん…」 「………」 そこにはしゃがみこんで声を押し殺すように泣きながらピンクの人の名前を呼ぶ杉田くんがいた やっぱり…!! 杉田くんはぼろぼろ涙を流して泣いていた 今まで一度も見たことのない杉田くんの表情だった… 「…っうう…うう…」 「………」 ……………杉田くん…… 胸がきゅうっと苦しくなってなんだか私まで泣きたくなった… やっぱり杉田くん、悲しいんだ…辛いんだ…… 泣く杉田くんをみてそう思うと弱虫な私の中で何かがむくむくと膨れ上がって行くような感じがした…

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