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ちっちゃな勇気
銀とケンカしてしまってからしばらくたった
銀はあれからも女子に質問攻めにされ続けているがノーリアクションを突き通している
教室では寝ているかそれかそもそもサボっているかのどちらかだった
今心配するような事じゃないと思うけれど授業サボって受験は大丈夫なんだろうか…
まぁ多分銀の事だし大丈夫なんだろうけど…
そして俺への嫌がらせも相変わらず継続していた
「……はぁ…」
思い出してため息が出る
俺は教室の前まで来ていたけれどなかなか入る気になれなかった
今日もあの汚れた机をきれいにしないといけないのかと思うと億劫だった…
授業が始まるまでには机をきれいにしないといけないからあまりここでぐずぐずしてもいられない…
仕方なく覚悟を決めて教室に踏み込んだ
でも今日はいつもとは違っていた…
「ッ!!」
教室に入ると急に何かに躓いて前向きにつんのめって転んでしまった
がたんっと大きな音がたって教室中から俺に視線が集まる
恥ずかしい…
床に強く打ちつけてしまい痛む膝を押さえながら慌てて立ち上がろうとすると俺が転んだあたりからわざとらしい甲高い声が上がった
「いったぁ~い!!」
「!!」
そちらに視線を向けるとあの俺に銀との関係を強く聞いてきた女子がしゃがみこんで足を押さえていた
周りでは彼女の友達がこれまたわざとらしく『大丈夫?』なんて声をかけている
どうやら俺が躓いたのは彼女の足みたいだった
多分、机に落書きしても、靴や体操着を隠してもイマイチリアクションを示さなくなった俺への新手の嫌がらせだったんだと思う
しばらく足を押さえていたその子はキッとオレを睨み付けると立ち上がってこっちにグイッと一歩近づいた
まだ膝がじんじんといたかった
「ちょっと杉田、いたいんだけど何なの急に?」
「女子蹴るとかサイテー…」
「ね、ありえないよね」
「………」
取り巻二人もわざと大きな声を張り上げる
わざと銀や廊下にいる人に聞こえるように話してるんだ…
あまりにわざとらし過ぎる罪の押し付けに腹が立ったけれど、俺が何を言ったところで無駄だとすでに諦めた気持ちになってしまっていた…
またいちゃもんつけられて最低だ、ありえないと仲間内で話すネタにされるんだろうと…それでもういいやと思った
でもその時、たまたま俺を睨み付けていた中心核の女子がちらっと銀のいるんであろう方へ視線を向けた
別にその女子としても特別な意味があったわけじゃなくて銀に俺が蹴ったんだと知らしめるための確認の視線だったんだと思う
だから俺もそれを特に何か思ったわけでもなくなんとなく目で追った
また銀はふせって眠っているんだろうと思ってた
でも……銀と目があった…
どくんっと心臓が鳴る音が聞こえたような気がした
銀が見てる…
久しぶりに合った銀の目はまっすぐに俺を見ていた
銀本人にそんな気はなかったのかもしれないけれど俺を憐れむようなそんな視線を向けられているような気がした…
「ちょっとどこ見てんの?その前に言うことあるでしょ?」
「そうよ!!謝んなさいよ!!」
女子がそう言う声でハッとして視線をそっちに戻したけれど銀の視線が頭から消えなかった
そしてその次の一言が決定的だった
「今頬付クン見てたでしょ?男のくせにそうやって頬付クンに色目使って助けを求めようとするなんて…きもちわるいのよ!!」
またどくんっと心臓が鳴った気がした
『男のくせに』
急に自分がみじめになったような気がして息苦しくなった
銀との付き合いを俺が男だってだけで『気持ち悪い』なんて形容されたことが悲しかった
またあの波が押し寄せて涙がせり上がってきた
息苦しくて、悲しくて、つらかった…
「謝んなさいってば!!」
「そうよ!!聞いてるの?」
「……!!」
何も言わずにうつむいたままの俺を気持ちの高ぶった女子がどんっと押した
その時
「や、やめ、なよ…!!」
突き飛ばされて後ろによろけた俺の前に小さな何かが飛び出してきた
「そ…そんな風に押したら…杉田くん…い、いたい…よ…」
俺を押した女子も、そして俺自身も…多分クラス中のやつが驚いた顔をしてたと思う
ぷるぷる小刻みに震えながら女子にそう言い返したのは桜井さんだった
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