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償い

「………あ、おい、ほら…」 「あ…見て、戻って来た…」 オレが教室に戻るとしぃんっと教室中が静かになった 視線がオレに集まっている この時やっと一人になっても毎日学校に通い一矢に皆からの嫌がらせを受けていたまなの気持ちがわかった気がした でもわかるなんてオレには言えない… あの時、嫌がらせを受けてたまなを見てキツイ言葉をぶつけてしまった自分をひどく呪った きっとあの時まなに優しい言葉を掛けてやれば…その後も全面的に保護してやってれば……あんなことには… でもそう思ってももう遅い… まなの机の周りにあった避妊具やまなの吐瀉物はきれいに片づけられていた 多分馬鹿力…あの久遠ってやつとちづちゃん、あとは健斗がやってくれたんやと思う 申し訳ない事をさせてしまった… 綺麗になったものの今までの嫌がらせでつけられた落書きの跡がうっすらと残るその机を見るとまなが震えながら席を立って顔を真っ白にしとった記憶が頭の中で蘇った きっとまなは今も保健室で泣いとるんやろう… その原因の大本がオレであることに胸が痛んだ でも……だから…だからこそオレがすべきことや… 「…っふぅー…」 大きく息を吐き出して、すっとまなの机を手で撫でた 教室の前の廊下からはあの女子三人組がこっちを見ていた ちょうどええ機会や… そしてぐるっと教室を見回してからオレはゆっくりと口を開いた 数人オレを見ていて目が合ったやつらがびくっと驚いた顔をした 「…恥ずかしくないん?」 「………」 オレが口を開くとさっきまでこそこそと話していた声も消え、本当にシーンと静かになった みんなこっちを見ている 「まながなにしたって言うんや…」 「………」 なにもしとらん…今回まなはなにもせんかった… ばらしたのはどっかの誰か、その噂を肯定したのはオレや… まなはなにもしとらんかった… 「ただ、ごくごく普通に人を好きになっただけや、それの何があかんねん…」 「………」 相変わらず周りはシーンと静まったままやった 今まで遠巻きに見続けた野次馬を見回す 「直接何もしてないからオレは関係ないって…そう思うとるんやろ?……噂されて、あんな嫌がらせされて…やせ細って、やつれて…あることない事噂した奴らやって、まなを傷つけた奴と同じや…」 オレも含めて… 廊下の安全なとこからオレの様子をうかがっている例の女子三人を見据える そして勤めて平然に言った 「………まなとは別れた…」 オレがそう言った途端、教室はざわざわと急にうるさくなった 藻府と久遠とちづちゃんは目を真ん丸にしてこっちを見つめている オレ自身また胸がキュッと苦しくなった 「……まなにもう構うな…」 その先の説明を期待したやつが何人かおったけどでももうそれ以上の詮索をうけるのもだるくてなくて自分の席に座った みんなちらちらこっちを見ながら話しの続きを待っとった さっき俺が言うたことについていらん憶測を教え合っとる オレとまなは別れた… 自分でみんなにそう公開したんや きっと二、三日せずに噂は学校中に広まるやろう そうすれば今まで通りとは行かなくても、まなへの嫌がらせはなくなるやろう… もうやっぱ無しは通用しない… 「………っはぁ…」 自分で決めたことが重く自分にのしかかってくるようやった…

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