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茶色く深く底光りするような

こうしてしばらく時間がたった オレも紺庄先輩から聞いた話やそれ以外の噂で頬付先輩と学さんの関係がいろいろあってばれてしまい、さらにいろいろあって別れてしまったという話は知っていた あんなに仲の良かった二人が別れてしまった事に初めは驚き あの二人でもそんなにあっさり関係が壊れてしまうものなのかと怖くなった でも実はオレが思っていたほど悲劇的な話ではないとあとから知ってほっとした 紺庄先輩いわく二人とも話し合って合意の上で別れたらしい… 当人たちやそのクラスメイトである紺庄先輩よりも離れたところから二人を見ていた後輩のオレには頬付先輩も学さんも別れてから明らかに交わす言葉の数は減り、以前のようななんだかんだ言って仲のよさげなコミュニケーションもなくなって、一緒にいるとこすらほとんど見なくなったけれど、それでも以前よりもさらに強い何かでつながっているように見えた 「おー猛~、どうなん?あれから健斗とえっちできてるん?え?言うてみ?」 「……そう言うこと出会いがしらに大きな声で聞かないでください…」 「え?なに?してないん?もしか…」 「インポじゃないです」 「まだ言うてないやん」 頬付先輩は廊下ですれ違ったりするとこうやっていつもと変わらずへらへら笑って声をかけてくる 一見フレンドリーに見えたし実際そう接してくれていた でもどこか出会った当初のような他を圧倒的に寄せ付けない雰囲気をまとっていた 無駄にオレにくっついてみたりしてオレを煽る あまりに以前と変わらない様子で絡んでくるからぽろっと思っていたことを口にしてしまった 「……せ…先輩はどうなんですか…?」 「………」 すると先輩はさっきまであんなにうるさかったのに突然黙ってオレの肩から手を退かし、じーっとオレを見つめてきた 茶色く深い、奥の方でぎらぎらと底光りするような目だった ゾワッと肌が泡立ち、ケンカしていたころに感じたことがある、強い相手と対峙した時のような冷たい空気を感じる 静かに冷ややかに頬付先輩が笑って片目をつぶった 全身に鳥肌が立つほどきれいに見えた 「ナイショ」 「……へ…」 「ふふっ」 頬付先輩はそっとオレにしか聞こえないような小声でそう言うと、満足そうに笑ってからオレの肩を叩いて行ってしまった 急な出来事にボーっとしてしまってハッとして後ろを振り返った時には頬付先輩はもういつもの背中を曲げただらしない歩き方で廊下を歩いていた あれをどういう意味合いで言ったのかはオレにはわからなかったけれどでもそんな頬付先輩を見てオレは二人が別れたのが合意の上だったのだと改めてホッとしたのだった

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