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今できること

こうして時間はたった 俺は徐々に元の生活を取り戻して、嫌がらせを受けることもなくなった 俺に嫌がらせしてた女の子達からはいやな視線を向けられたり、チッて舌打ちされたりすることもあったけど無視していればなんてことはなかった そして銀と距離を保って自分の今できることを頑張っているうちに冬休みに入った 三年生はセンター試験や受験勉強があるから冬休みが長めに設定されている ………冬休みに入る前、銀と特別な会話は何もしなかった… ただ『じゃあね』って言っただけだった でもそれでいいと思った 「………」 部屋で一人でシャーペンを走らせながらふと銀の事を思った 銀も今こうして勉強してるのかもしれない…それとも銀はもう余裕なのかな? ぼんやりそんな風に思ってるとドアがノックされた 返事をするとお盆を持った母さんが入ってきた 実は受験が終わるまでの間母さんだけこっちに帰って来てくれていた 始めはびっくりしたけどいつも自分でする家事なんかを母さんがしてくれるのは正直助かった 「学勉強どう?休憩しない?」 「…ありがとう」 ちょうどキリも良いし休憩することにする 母さんは部屋のローテーブルにマグカップを二つとチョコレートのお菓子を置いてその脇のクッションの上に座った 母さんもここで休憩するらしい マグカップの中には甘いミルクティーが入っていた 体が温まってホッとした 母さんがそんな俺を嬉しそうな顔で見ている そして自分のカップのミルクティーを一口飲んでから口を開いた 「学も大きくなったのねぇ~」 「……それいっつも言ってる…」 「そう?ふふっ」 母さんはそう言って嬉しそうに笑った 「最近頬付くんはどうしてるの?」 「え…」 「頬付くんよ、頬付くん」 「………」 母さんは至極当然のように聞いてくる 学校でのいろいろや銀と別れたことなんかを母さんは知らない… 少し前に母さんに言われた通り男同士で付き合うって言うのはすごく難しいことだったよ… 俺がその時思ってたよりずっと… 何も答えない俺に母さんは首をかしげてる あまり母さんを心配させたくはなかった 「…元気だよ」 「そう、それは良かったわ~」 心底嬉しそうに母さんが笑う その顔を見ると少しほっとした 「そうだ!!もし頬付くんのご都合が良ければクリスマスにでもおうちに呼んで一緒にご飯食べましょうよ!!あ、でももう二人で予定があるかしら?私お邪魔?」 「……ない、けど…ほら…銀も受験生だし、さ…忙しいんじゃないかな?」 「頬付くん頭良さそうだものね?それもそうねぇ~…」 「……T大をね、受けるんだって…」 「あらぁ~…」 母さんは『T大…』と繰り返しつぶやいた 俺も頭の中で繰り返す そうするとまだ決まったわけではないのに銀が遠くに行ってしまうことが急に現実味を帯びた気がした 「頑張ってほしいわねぇ~」 「………うん…」 まだ素直に『うん』と言い切ることはできなかった 心のどこかで行って欲しくないと思っている でもきっとその時までには… 「…じゃあ、邪魔しちゃったわね?学も勉強頑張ってね?」 「ありがとう母さん」 「いいえ、ふふっ」 そう言って母さんは出て行った 机の上に広げたままの勉強道具に視線を向ける 今できることをするんだ…

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