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強く

俺を庇って出てきてくれた藻府と女子が言い争っている そして女子はとっておきと言うように藻府の秘密を言った 「……あんたさ…藻府っていったっけ?…さっきからそうやって偽善者ぶってるけど…うちら知ってるんだからね?」 「………?」 「バレー部の奴がさ~言ってたんだよね…杉田と頬付君が付き合ってるって噂流し始めたの…バレー部の藻府ってやつだって…」 「ッ!?」 「あんたさ、バレー部じゃなかったっけ?」 「………」 場が凍りつき教室が一気にシーンとなる その中で女子たちはくすくすと笑い、クラスのやつらの中からは『ひどい…』『最低…』なんて声が聞こえた ついこの間まで俺と銀の事を気持ち悪いだの引くだの言ってたくせに… と思わなくもない… 「……ッ…」 藻府は一人うつむき唇をかみしめていた 何か言わないといけないって思った… 俺の問題に関係のない藻府を巻き込んじゃダメだって… 「…っあ…」 そう思って口を開き、手を伸ばしかけた時 自分の中で何か嫌な感情が頭をもたげて動きが止まった 『ほんとにそう思ってるのか…?』 自分の中からもう一人の自分がそう聞いてきているような気がした 『藻府は関係ない…巻き込んじゃ悪いって本当に思ってるのか?』 嫌な自問が続く たらっと背中を冷や汗が伝った 数か月前…教室に入っていきなり攻撃的な視線を向けられ、その理由も原因もわからぬうちにクラス中のやつらが俺を異端と見なしたあの日の事を思い出した… 異端と見なされ、攻撃された… そもそもこいつのせいで俺と銀は… 何度も考え、そのたびにいずれは通らないといけない道だったんだって割り切っていたはずなのにその嫌な思考が頭にまとわりついて離れなかった だって…藻府の発言さえなければ俺も銀も今頃以前と変わらず恋人同士で…秘密を窮屈に感じながらにも二人でうまくやっていけてたはずだ… 「………」 そう思うと胸の内に広がったどす黒い感情が広がって体中にじわじわと染み込んでくるようだった 伸ばしかけていた手を下した ………何も彼女たちは嘘を言ってるわけじゃない…全部ホントの事だ… だったらそれで藻府が何言われたって…傷ついたって…別に自業自得なんじゃないのか…? 俺だってもとはと言えば藻府の発言が原因でたくさん傷つけられて、嫌がらせされて…あんな…今までにないぐらいいやな思いもいっぱいしたんだ… 今でもまだあのどろりとした白い液体が体にまとわりついてくるような感覚を思い出して目が覚めることがある… それを思い出すだけで気分が悪くなりそうだった …またあのつらい日々が頭をよぎって体が硬くつめたくなる… ……………ホントに…ホントにつらかったんだ…… すっと顔を上げた 俺のために出てきてくれた藻府はくしゃっと顔をゆがめて悔しそうに拳を握っている 隣のクラスの女子三人組を中心にクラスのやつらのほとんどが藻府に軽蔑と嫌悪の視線を向けていた ………つらかったんだ…… 急に胸が苦しく息が詰まって泣きたくなった なんだか無性に悲しく、辛く、悔しかった クラス中から向けられる嫌な感情が込められた視線、クスクス聞こえる嘲笑、誰も自分の側に立ってくれないんだと思う心細さ… 自分が善かれと思ってした選択が自分の首を絞めるんだ… つい昨日まで友達だと思ってたやつらがみんな好奇の視線で俺を見るんだ… 誰かにわかってもらいたいのに誰にもわかってもらえないんだ… 「………」 藻府は一人でクラス中の視線を一身に受けながら立っていた

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