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本当の気持ち
「ねえモブくん、なんか言ったらぁ?」
「図星過ぎてなんも言えないんじゃね?」
「あははははは!!!!」
女子たちが勝ち誇るように笑う声が耳に痛かった
あの日の俺にはもっと鋭く痛く聞こえていたに違いない…
誰か一人味方に付いてくれてるんだってわかるだけで救われるんだ…
ぐっと歯を食いしばって前を向く
悔しそうに俯いている藻府の姿が目に入った
謝りに来てくれたんだ…
自分のしたことが軽率で残酷なことだってわかってたからあんなに泣いて頭を下げに来てくれたんだ…
正直藻府のしたことを良いよ良いよって笑って許せるほど出来た人間じゃないけど……でも…それでもできることはある…
「ひどいよねぇ~…自分で友達の秘密バラしてそれで招いた騒ぎを偽善者ぶって庇ってさぁ?」
「あたしらよりヤバくね?」
「あれじゃない?自演って言うの?もっとうまくやれっつうの」
「………ちがうよ…」
「…あぁ?」
「……何杉田、今あんたの話してないんだから黙ってろよ」
「そうだよ、何自分から入ってきちゃってんの?ドM?」
「………」
女子たちがこっちをにらみ、藻府やクラスメイトは驚いた顔でこっちを見つめていた
誰もオレが何か言うとは思ってなかったらしい
たった一言で良いんだ…それだけでずっと気分が楽になるんだ…
「…藻府は…そんなんじゃない、よ…」
「はぁ?何言ってんのあんた?」
そうは決めてもまだ心に植え付けられた恐怖は残ってるみたいで声が震えた
ギュッと震える拳を握る
「……言った後に…悪いことしたって思ったから俺のとこにも謝りに来た…」
「ハッ、だからなんだっていうの?」
「てかなに?こいつ自分の秘密ばらした奴の事庇ってんの?超笑えるんですけど」
「………泣きながら…許してくれなくても殴ってくれてもいいって…謝りに来たんだ…」
「………」
女子たちの発言は無視した
そんな安い挑発に乗る気もないし彼女たちも乗ってくるとも思ってないんだろう
藻府は驚いた顔のままこっちを見ていた
その眼を見つめ返す
彼女たちに藻府が傷つけられる筋合いはないんだ…
「俺と…銀以外が藻府にそのことを責める筋合いはない…」
「………」
藻府は面食らった顔をしてた
クラスのやつらはなんだかばつの悪そうな顔をしている
それを見て騒いでいた女子たちも徐々に静かになった
お互いに顔を見合わせている
真っ直ぐ…正面から静かになった彼女たちを見つめた
三人とも少しだけひるんだような表情をしていた
大きく息を吸う
胸の内のずっと深い所に重くあり続けたものがするっと自然に出てきた
「……俺は…銀が好きだ…」
「「「ッ…」」」
「誰に何と言われても…銀がもし…もう俺の事を好きじゃなくても……今までも…これからもずっと好きだ…」
シーンとした教室に俺の声が響いていた
少し声が震えていた
じっと彼女たちを見つめて目をそらさなかった
「銀がたまたま男だっただけ…誰かが誰かの事を好きになるのと変わらないのに…」
「………」
「それを…その気持ちを……気持ち悪いなんていうな…」
「………」
うまく言えたかわからないけれど言い切った
ずっと胸の中にしまってきたことだった
ずっと…ずっと言いたいと、わかってほしいと思ってきたことだ…
「……ッ…」
それを言い切ると急に目頭が熱くなった
じわじわと目が熱くなり涙が出てきた
無性に銀に会いたくなった
このままでいいわけない…
さっき女子に連れられて行った銀を思い出した
銀だって…もし、もう俺とは別れようと思ってたとしたって…このまま話さず終わっていいなんて、そんなこと…絶対思ってるはずがない…!!
グイッと目元を拭ってしんと静まり返った教室を後にする
銀は絶対…絶対待っててくれてる…
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