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精一杯

保健室は窓が開いてて風がよく通ってて気持ち良かった 白いカーテンが風になびいてはたはたと揺れている 前仲直りしに来た時とそっくり… ただ違うのは外に桜の花弁が舞っていることと、前ここにこんな心持で来たときベットの上にいた彼は寝ていて(狸寝入りだったけど)今は起きていることぐらいだった 桜と同じ色の髪がさらさらゆれている 「……前の時と同じやって思ったやろ?…」 「……今回は銀起きてるけどね…」 「前やって起きとったやん」 「狸寝入りしてただろ…」 「今回もその方が良かった?」 「……勘弁してくれ…」 ベットの上に座って外を見てた銀がカラカラ笑う そんな銀の隣に人ひとり分間を開けてすとんっと腰を下ろした 「………」 「………」 何も言わずしばらく外の景色を二人で眺めていた 会ったら聞こうと思ってた事がいっぱいあったのに今はその静かな間が幸せで心地よかった 外からにぎやかな声が聞こえる 卒業したんだなぁ…と今さらながらに実感した 先に口を開いたのは銀だった 「……ゴメンな…連絡もずっととらんと…不安にさせたやろ…?」 「…………ホントだよ…」 「…ははっ…ごめんなぁ…」 はー…っと銀が大きく息を吐いた それから銀は話し始めた 「……オレ、しばらく学校行かんかったやろ?…あの時な家さがしに行ってん…」 「……家…?」 「…そう、家……親が来れへんって言うから仕方なく兄貴と行っててん…それでその時スマホ持ってくの忘れとってな?連絡取れへんかったんよ…でもおかげでちゃんと家も見つかったから…」 「家…って、じゃあ…」 「ん、受かっとったよ」 「!!」 パッと銀の方を向くと銀は優しく微笑んでこっちを見てた なんだか胸がいっぱいになって涙が滲んで来て思わず銀に飛びつきたくなった でもその衝動を必死に抑える 自分が合格した時よりも嬉しかった 「そっか、そっか…おめでとう…銀、ほんと、おめでとう…」 「ははっ、なんで学が泣くん?」 「別に…泣いてなんか…」 「なに?信用してくれへんかったん?」 「そ、いうわけじゃない…けど…」 「……ん、わかっとるよ、ありがと…」 銀がふわっと笑った 綺麗だと思った 「…俺も、ね…受かってたよ…」 「…そっか…良かった……」 銀は相変わらず優しく笑ってた その顔を見てまた余計に涙が出てきてこぼれそうになった ぐしぐしと零れ落ちそうになってた涙を拭う まだ泣くわけにはいかないんだ… きゅっと唇を引き結ぶ すると銀も同じことを思ったかのように真剣な顔になった 俺も居住まいを正す 「……じゃあ…」 「……うん…」 外のざわめきだけがやたらと大きく聞こえる気がした

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