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全部あげる

銀がポケットから取り出したのは俺がもう銀は誰かにあげてしまったものと思い込んでいた金色の第二ボタンだった 銀がころころとそれを手の中で遊ばせている 「もし取れたり…それこそとられたり…なくしたらいややな思うて外しててん…」 「………」 「ん…まな…」 「……へ…?」 「手、出して?」 「………」 おそるおそる右手を出すと銀はそこにころんっと第二ボタンを置いた なんだかすごくずっしりと重いような気がして胸がいっぱいになった パッと顔を上げて銀を見る 銀は俺の顔を眺めてふふっと満足げに笑った 「それ、まなにあげる…」 そして立ち上がって保健室の先生の机によると何か持って戻って来た 再びベットに座りなおして何か作業をしている でも俺はその時銀の第二ボタンをもらえたことが嬉しくて、銀の第二ボタンを手の平の上でそっと転がしたり眺めたりしてたから銀が何をしているのか気付かなかった そしてしばらくするとまた銀から声が掛かった 「ん、まな」 「…ん?」 「手、もっかい出して?」 「………?」 良くわからなかったけれどとりあえず第二ボタンを制服のポケットに大切にしまってからもう一度手を出した すると… 「!?」 ぱらぱらと銀が高い位置から何かを落とした 窓から入ってくる日差しがそれに反射してきらきら光りながら落ちてくる そしてそれは俺の手の上に落ち、俺の手で受け止めきれなかった分が保健室のシーツの上に散らばった 光が飛び散ったみたいで綺麗だった… それはいろんなボタンだった 第二ボタン以外のブレザーのボタン…制服のシャツのボタン…袖のボタン…襟のボタン…スラックス のボタンまでがきれいに切り取られて降ってきた 「…ッ!!」 思わず銀を見上げると同時に銀の腕が背中にまわされてぐいっと引き寄せられた 久々の銀の香りに包まれてなんだか頭がしびれるようだった 『すー、はー』っと銀が俺の肩に顔を埋め俺と同じように…俺の匂いを吸い込むように大きく息をついた それからゆっくり口を開く 耳元で銀の声がやけに大きく聞こえた 「……全部あげる…」 「………」 「ボタン…第二ボタンだけやない…全部…全部まなにあげる…まなにしかあげない…」 「………」 その言葉の一つ一つが体に染み込んで来て体が震えた きゅうっと銀の手に力がこもる 「……ごめん、ちゃんといろいろ話してから触ろう思ったんやけど…我慢できんかった…」 「………」 「………まな…これからもオレと恋人でいてくれるん…?」 「……ん…」 うんっと首を縦に振る 嬉しくて、幸せで目に涙が滲んできた なんだかもう半分癖になってしまったみたいでその涙をぐっとこらえようとして、もう我慢しなくていいんだ…って気づいた 頬を涙が伝って行く 「……遠距離恋愛やで…?きっと一か月に一回とか…もっと会えないかもしれないんやで…」 「……ッ…ッ…」 うんうんと何度も首を縦に振る 銀は俺の背中をさすりながら聞いてくれた 「それでも…オレの恋人でいてくれるん…?」 「……当たり前だろ…!!」 そして思わず耐えきれなくなって銀に飛びついて背中に手をまわした 俺と銀の周りに銀の制服のボタンが跳ね、飛び散ってきらきら光った

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