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二人きり

この後俺たちは俺の卒業を祝うために奮発して料理を作ってくれていた母さんと父さんの待つ俺の家に帰った 銀に『今日オレん家泊まるやろ?』って言われて、母さんが料理を作って待ってくれていることを思い出し、タイミング悪いなと思いつつ銀にそのことを伝えると、銀は『後でオレの家来てくれてもええし、別の日でもええわ』って言ってくれた だから母さんに『ご飯の後で銀の家に泊まりに行ってもいいか』って確認の電話をすると、母さんは『なんなら銀も晩御飯をうちに食べに来たらいい』と言ってくれた 銀は初め遠慮したけれど母さんは連れてきてもいいと言うより連れてきてほしいみたいだったし、正直言うと俺もその…一緒にいたかったっていうか… と、とにかく銀は俺の家で晩御飯を食べた 母さんと父さんは俺と銀の卒業を心から喜んでくれて、銀もなんだか柔らかい雰囲気で嬉しそうだった 銀の両親は卒業式に来なかったからもしかすると銀だってそれをさみしく思ってたのかもしれない… ………ちなみに金さんはびっくりするほど気合の入った真っ白なスーツを着て、髪までばっちり決めて参列していた…どっかの俳優かなにかみたいで明らかに浮いて目立っていた…周りの視線独り占めって感じだった…… しかもこれでも朝から大ゲンカして落ち着いた服装にさせた結果だと言うから驚きだ… ちなみに落ち着く前の服装は銀の名前の書いた横断幕を持ち、自作のペンライトを頭にさして、これまた自作のはっぴを羽織った格好だったらしい… 銀はそれを話すだけでげっそりとしていたし聞いて俺もげっそりした とにかく話はずれたけど母さんは嬉しそうに俺と銀の頭をなで、散々左手の指輪を茶化し、最新の山下さん情報を伝え、最終的には酒に潰れた 俺が酒に弱いのは主に母さんの遺伝なのかもしれない… そりゃもうべろんべろんに酔っててちょっと心配なぐらいだったけれど父さんが任せていいと言ってくれたのでお言葉に甘えて俺らは銀の家に向かうことにした 「………」 「………」 まだ少し肌寒い夜道を並んで歩く 「………」 「………」 お互い何も言わずにひたすら歩いた 俺の左手は銀の右手に握られていたけれど、いつもみたいに『人に見られる』とか『公共の場でそういう事するな』とかは言わなかった ただただ黙って銀が呼吸する音を聞いていた 駅に着くまでも、電車に乗ってからも、電車を降りてからもずっと手をつないでいた いろんな人に好奇の目で見られたりひそひそ噂されたりしたけれどそんなのはもう気にはしなかった… そしてそうこうするうちに銀の家の前までついた さっき俺の家を出るときに聞いたけど今日は金さんは帰って来ないらしい… 「………」 「………」 銀がバッグから鍵を取り出しドアを開ける そのほんの少しの間だけ手が離れたけれどなんだかそれだけでさみしく思ってしまった 長いこと我慢して…急にこんなに幸せで…感覚がおかしくなって贅沢になってしまったのかもしれない…… ぼんやりそんなことを思っていると部屋の鍵を開け終えた銀に手を引かれてもう何か月も入っていなかった銀の家に久々に足を踏み入れた

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