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最後の涙

「……ん…」 次目が覚めた時自分が一瞬どこにいるのかわからなかった まだ重たい瞼を開いたり閉じたりする 「………」 あったかい…きもちいい… 暖かくて居心地もよくてまどろむ 落ち着くいい匂いがして幸せな気分だった 思わずにへーっと顔が緩んだ でもだんだん意識が覚醒して来てのんびりもしてられなくなる あれ…ここ、どこなんだっけ… 半睡半醒なまま二度寝しようとする脳を必死に起こす 「………っふ…」 「…?」 するとその時ちょうど額の辺りに風があたったような気がして顔を上に向けた ……あ…おれ銀の家にいるんだ……銀と一緒にいるんだ…… 風だと思ったものは銀の口から漏れる吐息だった それが断続的にオレの額にかかっていた 「………」 「………」 銀は右手を俺の腰に回し、左手をオレの左手の指と絡めて眠っていた すーすーと寝息を立てている ……珍しいな…その…し、した…次の日に俺の方が早く起きるの… なかなか見れない銀の寝顔をじっとながめる 銀が寝息をたてるたびに長いまつげがふるるっと震えた もう日は高く昇っているらしく、カーテンの隙間から日光が差し込んでいた ……… なんだかそんな銀の顔をいつまでも見ていられる気がした ……きっと…しばらくはこんな風に銀と同じベッドで眠ったりできなくなるんだ… そう思うときゅっと胸が狭くなった ずっと我慢して銀と離れても大丈夫だって思えるようになったのに、銀に優しくされてこんなに幸せで急に贅沢になってしまったみたいだった だから…自然とこんな言葉が漏れてしまったんだと思う…… 「……ぎ…ん…」 「………」 「………やだ…」 「………」 「………いか、ないで…」 「………」 「………ひとり、に……しないで……」 そう口にしてしまうと途端に我慢していたものが目から涙と一緒にあふれて来て止まらなくなってしまった 銀が眠ってるのを良いことに銀を起こさないようにそっと銀に縋って泣いた これで、最後にする…から……もう泣かない…し、こんなこといわないから… 「っう…うぇ…ッ…いっしょに…いて…」 「………」 静かな部屋に俺が泣く声だけが響いている いつの間にか銀の寝息は止っていた

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