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懺悔

「…えっと…その…」 「………」 久遠さんに背中を押されて一歩前に出る 目の前には頬付と杉田が立っていた 頬付は俺が前に出たとたん、さっきまでの桜井さんに向けていた優しいそれとはまったく別の冷たい視線を俺に向けた その少し後ろで杉田は俺と頬付を交互に見て心配そうな顔をしている 実は俺はあの一連の騒動の後ちゃんと頬付に会うのは初めてだった 杉田には卒業式の日の夜にお礼と謝罪の気持ちで再度メールを送ったけれど、頬付には何度考えてもいいメールの文章も思いつかず、電話もできなかった… 頬付はじっと黙って俺を見ている 正直威圧感も半端なく滅茶苦茶怖かった 殴られることも覚悟で来たけれど別に好き好んで殴られたいわけではない ぶわっと額から汗がにじむ ゆっくりと口を開いた 「…いろいろ…その…悪かったと思ってる…」 「………」 「……二人のこと…そもそも知っちゃったのだって二人には不本意だっただろうし…それに秘密にしてくれって頬付にあんなに頼まれてたのに……」 「………」 そう言うと杉田が驚いたような顔で頬付を見た どうやら杉田は知らなかったらしい 「ただ言いたくなってしまったなんて…そんな理由で…言っていい秘密じゃなかった…」 「………」 「……許してくれなくてもいいと思ってる……それにもう済んだことだからって謝ってすむ話じゃないけど…ごめん…」 「………」 そう言って深く頭を下げた 頬付は終始無言でそんな俺を見ていた しーん…と場が静まり返る… そんな中で杉田が小さな声で『……銀…』と呼んだのが聞こえた それに続いて『っはぁ~』という深いため息が聞こえた 「……顔…上げえや…」 「………」 頬付にそう言われて頭を上げる でも怖くて頬付の顔を見ることはできなかった 視線を落としたまま話を聞く 「その後あんな風になるとか考えなかったん?」 「……そこまで、気が回ってなかった…」 「お前が言いたくなったって理由だけでオレらの事人に話して…それで、オレはまぁあんま学校行かへんかったからええけど、まながどんな気持ちやったかわかる?」 「……………わからない………本当に申し訳ない事をしたと思ってる…」 「ほんまにやで…」 そう言うと頬付は再度『はぁ~』と深くため息をついた 「……まなから聞いた…卒業式、まなの事庇ってくれたんやって?…」 「………」 「それでええわ…それでチャラにしたる…」 「!!」 ハッと顔を上げて頬付の顔を見ると頬付は困ったように笑っていた 張りつめていた空気がふっと柔らかくなるのを感じた 思わず目頭が熱くなって涙が滲みそうになる 「……ありがとな…藻府…」 「ッ!!」 頬付にそう言われて精一杯首を横に振った そんな感謝されるようなこと何一つしてないんだ…なのに… 滲んだ涙が止まらなかった

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