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スピカおばさんのクッキー

藻府は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔で何度も俺と銀に頭を下げていた やっと落ち着いたのか桜井さんの友達の…えっと…久遠さん?にティッシュを貰い顔を拭って鼻をすすっていた それから再度深く頭を下げてかすれた声で『ありがとう…』と言ってから後ろに下がった 「………」 ちらっと銀を見上げると銀は優しそうな顔をしていた ……良かった… 元々俺は卒業式の事もあってもうそんなに藻府に対しての怒りとか恨みっていうような感情はなかった でも銀は違うんじゃないかと思ってた それについさっき初めて聞いたけど銀は藻府に俺らの関係がばれた時頭を下げて秘密にしてくれと頼んでくれたらしい きっと俺のためだ… 銀はずっと公表したがってたけど俺が隠したままがいいって言ったから… わざわざ俺には内緒で頼みに行ってくれたんだ… そう思うと胸が暖かくなった半面、そんなにふうにして隠そうとした秘密をこんな不本意な形で公表された銀の藻府へ気持ちを思って体から血の気が引いた そして何度か見たことのある、激昂した銀を思い出して身震いした でも銀は努めて冷静に話し、藻府を許した それが銀の心境の変化によるものなのかなんなのかはわからなかったけれど俺は嬉しかった 「…?…!!あ、ハイ!!はい!!はーい!!」 「……どしたんわんこ…」 「若葉ッス!!」 藻府の話がひと段落すると今度は突然若葉ちゃんが前に出てきて学校みたいに手をあげた 「次!!次おれッス!!」 「はいはい」 「ひどいッス!!」 銀が薄く笑って適当にあしらうと若葉ちゃんは大げさにリアクションを取った なんだかくるくる変わる表情は見ていて飽きなかった 若葉ちゃんは今でもノアを『良い子』で待っている… その一環として確か何か部活動に入ったって聞いた なに部か忘れてしまったけれど運動部だったような気がする 運動神経は元から良いらしい そんな若葉ちゃんは銀に近付くとずっと手に持っていた『スピカおばさんのクッキー』と書かれた紙袋を銀に渡した 中を覗くとそこには可愛い包装がされているクッキーが入っていた 「クッキーッス!!向こうつくまでの間か、おうち着いたら食べてほしいッス!!」 「また食べ物…」 「うす!!偶然ッス!!」 「えー…オレ向こうに着くまでに口の中ぱっさぱさになる…」 「スピカおばさんのクッキーおいしいから大丈夫ッス!!」 「いや関係ないやろ」 銀はそんな事を言いながらも嬉しそうだった 若葉ちゃんは『関係ありますよぅ…』と唇をとがらせている

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