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先輩と後輩
「銀~、元気でねぇ~」
「うんうん、健斗もな?まなの事たまに気にしたって?」
「うん…」
健斗がオレの手を握ってぶんぶん上下に振りながら頷く
もはや健斗の大きな目には涙がいっぱい溜まってうるうるしていた下唇を噛んで耐えてるせいでちょっと面白い顔になっとる
「銀もね…銀も学にいっぱい連絡してあげてね…おれにもしてね!!」
「もちろん…ほら、健斗鼻水垂れるで…」
「…う……」
健斗の鼻と涙をティッシュで拭ってやると健斗はギュッと目をつむってから目をぱちぱちと瞬きした
健斗にはほんと俺というかまなが世話になった…これからもまなの力になってほしいと思う…
オレとの別れをこんな風に泣いて惜しんでくれる健斗の頭をポンポンと撫でる
まなの髪よりもさらさらした触り心地だった
健斗は気持ちよさそうに目を細めている
「………」
「…ほら、健斗…過保護ムッツリ筋肉がオレの事ジト目で見とるわ、また過保護ムッツリ筋肉ジト目ゴリラの眉間にしわが増えるからもう行きや」
「…!!…たけるぅ…」
わーっと健斗はすぐ後ろで俺を睨み付けながらも我慢して立ってた猛にしがみ付きに行く
猛はそんな健斗を受け止めて背中を撫でて落ち着かせながらも相変わらずオレの事をじとーっと睨み付けていた
「なんやねん過保護ムッツリ筋肉ジト目ゴリラ眉間しわ太郎…束縛激しいやつは嫌われるで」
「うるさいですピンクスケベ先輩、余計なお世話です」
猛は心底嫌そうな顔をした
こんな顔ももうしばらく見ることがないかと思うと寂しいもんがあるな…
そんな事を思いながら猛をからかう
でも猛は嫌そうにしつつもオレがからかうのに付き合ってくれていた
少しして、猛は落ち着いた健斗に『トイレで顔洗って来たらどうです?』と提案した
健斗は頷いて鼻をすすりながらトイレに向かった
それを見送ると猛が『はぁ…』っと溜息をつく
それから真面目な顔をしてこっちを見た
「………これ…うちの家族からです…引っ越し先ででも使ってください…」
「そんな嫌そうな顔しながら渡さんくてもええやん、『これ俺から何ですけど…俺だと思って大事にしてください♥』とか…」
「気持ち悪いです、死んでください」
「………」
猛がくれたのはさわり心地の良いタオルのセットやった
きっと家族からとか言うとったけど自分で買うてくれたんやろう
嫌そうな顔をされたけれどとりあえずは『ありがとう』と伝えておく
「………まぁ…猛もいろいろがんばってな?何なら大学でもオレの後輩になってくれてもええで?」
「……らしくないんでやめてください…あと絶対いやです…」
猛が相変わらずすぎておかしくて笑う
でも猛なりに応援してくれてはいるんやろう
猛は相変わらず睨むようにオレを見ていた
これでも一応こいつには感謝してるんやで?
「………猛…ありがとな…」
そんな風に思っていたらぽろっとそんな言葉がこぼれた
多分、本心から出た言葉だった
猛が少し驚いたような面食らったような表情になる
でもすぐに居住まいを正して頭を下げた
「こちらこそ…ありがとうございました…」
まじめなやつやと思った
時計を見るとちょうど登場開始の30分ほど前やった
空港内のアナウンスがオレの乗る予定の飛行機の案内をしている音が聞こえた
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