93 / 1015

感謝を込めて

翔さんはその後車に乗せて俺を送ってくれた 道中ずっといつもと変わらず笑っていつもみたいにどうでもいい世間話をして帰った 「…………学ちょっと手貸して?」 「……………」 翔さんがこっちに左手を出してひらひらさせてる それに乗せるように黙って右手を出した 「ふふ、恋人つなぎ」 翔さんはいつかみたいに嬉しそうに指を絡めて手を握った でも前とは違って翔さんの手は冷たく震えて俺の手をギュッと強く握っていた そのまましばらく住宅街を進んで俺の家の前で車が止まる 「……………じゃあね……」 「……………」 翔さんが少しさみしそうな顔で手を振ってそのまま車を出してしまう ……ダメだ… その場にバッグを落として翔さんの車を追う 俺も…俺もちゃんと言うこと言わないとだめだ!! 「しょうさああああああああん!!!」 翔さんの名前を叫んで必死に車を追う それでも車が角を回って見えなくなってしまって諦めかけてしまう …ダメだ…ちゃんと言わないと…翔さんの家まで行ったって言わないと!!! そのままのスピードを保って角を曲がると翔さんは車を止めて待っててくれた 運転席の隣に立って膝に手をついて息をする 「……っはぁ…はぁ…はぁ…」 「……どうしたの?」 「………しょう…さん…?」 「…ん?」 息を整える まだ何を言うか決めていなかった 「……あ、の……俺翔さんと付き合えて良かったです…」 「……………」 思ったことをそのまま口に出す 「…翔さんといろんなところ遊びに行ったりドライブしたり…ホントに楽しかったし………銀とのこと…ホントに辛かったのに、翔さんと一緒にいる時はそう言うの忘れてホントに楽しかったんです…」 「……………」 「…好きでした」 「……………」 「………でも…俺…素直じゃないし、かわいくないし、意地っ張りだし……それで翔さんに辛い思いさせちゃって…でもそれで気づくことができたんです」 「……………」 「………感謝してます」 息を吸って膝についてた手を離して顔を上げ、笑う 「…………俺と付き合ってくれて………ホントに…ホントにありがとうございました、内海先輩」 内海先輩は初め驚いたような顔をしてたけどそれから柔らかくきれいに笑った 目の端が光ってた様な気がする 「…………こちらこそ…」 先輩は少し震えた声でそう言った 「………じゃ…」 「………うん…頑張ってね…」 先輩は俺の頬をスルッと一回撫でてから車を出した その手が優しくて…優しすぎて、少し胸が痛んだ その後俺は先輩の車のライトが見えなくなっても車が去った方を目で追って見送った

ともだちにシェアしよう!