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ライブ

11時ちょっと前なぜか体育館は人であふれかえってた ちょっと緊張する …すげ…やっぱりすごいバンドだったんだな… うちわとかペンライト持ってる人までいる… なんだか前テレビで見たアイドルのライブみたいだった ざわざわ人でひしめき合ってる ちょっとだけ前の方にいる女子の声が聞こえた 「ボーカル楽しみだね!!」 「ホント!!きっとカッコいいよ!!超楽しみ~」 「きれいな声だもんね~」 あ…あの子たちは鈴木先輩目当てで来たんだ…しかもボーカルの… なんか罪悪感… しばらく先輩の姿を探したけど人が多いせいか見当たらなかった いつもの先輩なら一番前に来てくれるんだけどな…もしかして…って言うかやっぱり来てくれて無いのかな… そうやって少し沈んでると二宮先輩に緊張してると思われたのか大丈夫大丈夫と声をかけられた 11時ちょうどになって体育館の明かりが落ちてキャーと歓声が上がった 始まるんだ… 鈴木先輩たちに続いてステージに上がる 客席でハッと息を呑むような気配を感じた ………? 心なしか一瞬歓声が静かになった気がする 先輩たちが後ろで前奏を弾き始めた オレはボーカルで一番前なわけでやっぱり緊張してた ………大丈夫…紺庄先輩だってうまいって言ってくれたんだから 紺庄先輩に頼まれてカラオケに行ったときのことを思いだす 美香から聞いた今流行ってるらしいアイドルの曲を歌ったら紺庄先輩は手を叩いて笑って褒めてくれた …大丈夫 軽く息を吸ってから口を開いた きっと…紺庄先輩ならどんな風に歌ったって上手だよって言ってくれる… …………紺庄先輩… 1曲目、2曲目と歌って3曲目になるころには客もペンライトを振ったり手拍子したり歓声を上げたりとやりやすい雰囲気になった ……紺庄先輩もいてくれるかな… 作詞は篠田先輩と鈴木先輩でやってるらしいけど曲は恋愛の曲が多かった オレは恋愛らしい恋愛を紺庄先輩としかしたことがないから紺庄先輩を思って歌った 先輩たちに感情が足りないと注意されて好きな人を思って歌えって言われてそうするようにするようになってからすごい褒められたと同時に茶化されまくった… こうして無事一日目のライブが終わった 退場した後も歓声と熱気が止まらなくて成功だったっぽい 鈴木先輩も篠田先輩も二宮先輩も早瀬先輩も達成感にあふれた顔をしてた そのまま体育館前の廊下に出た そこで挨拶するのが通例らしい 先輩たちはファンらしき女の子たちからいろいろ差し入れを貰ってた 鈴木先輩は手作りのお菓子をもらって大はしゃぎして、篠田先輩は彼女と思われる人と嬉しそうに談笑していた、二宮先輩は親御さんが見に来てたらしく少し照れくさそうにしている、早瀬先輩はラブレターらしきものまで貰っていた やっぱりすごい人たちだったんだな~… ボーっとそんな様子を体育館のドアの脇に立って見ていた 「ほら、行きなよ?」 「で、でも…」 「大丈夫だって、そんな怖そうに見えないよ?ほら!!」 「う…うん…」 そうやって先輩たちを眺めていたら 小柄でおとなしそうな女子とポニーテールの少し気の強そうな女子がオレに近づいてきた おとなしそうな女子が背中に手をまわしてもじもじしている 「あ、あの…」 「え…オレ…?」 「あ、あのっ!!ふぁ、んですっ!!声すごいきれいだし…歌も上手で…あ、あの…あの…応援してます!!」 そのおとなしそうな女子ががばっと赤い顔を上げて勢いに任せてそう言ってオレの手に何か押し付けて走り去って行った 緊張してたのか声が裏返ってた …え… 押し付けられたものはかわいくラッピングされたクッキーだった いろんな種類が入ってる 「あ…あの…」 するとまた他の女子にも声をかけられた 白いタオルを握り閉めている あ…確かこいつ同じクラスの女子だ… 名前…知らないけど… 「え、っと……あの…ライブ…お疲れ様…その…ボーカル、吉田君だって知らなくて…で、でもっ!!上手だったよ!!あの、これ!!汗かいてるでしょう?」 そいつも勢い任せにそう言って照れくさそうにオレにタオルを押し付けてきた まぁ確かにちょっと運動した後並みの汗をかいた、ライブって疲れる… 「お…おう…?」 「あの…それ使ってくれていいから…」 「あ、ありが、とう…?」 こういう時どうしたらいいかわからないけどとにかくお礼を言った 「洗って返すから…?」 「っえ!?……あ、うん…」 なぜかすごい驚かれた でも…オレが思ってた以上にクラスの奴らも悪い奴らじゃなかったのかもしれない クラスの奴らがオレを怖がってたのと一緒でオレもどこかクラスで外されて腫れもの扱いされるのを怖がってたのかもしれない

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