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ファンと恋人
タオルをくれた名前も知らないクラスの女子はしばらくオレの隣にいていろいろ話した
元からこのバンドのファンだったらしく何度もライブに行ってて、で音楽室から鈴木先輩じゃない声の歌が聞こえてそれをすごい気に入ってくれて今日を楽しみにしてたらしい
初めはオレの事がやっぱり怖いのかうつむき加減で話していたけどしばらくするとオレの顔を見て話すようになった
すると気づかないうちに周りにいろんな女子がいて焦った
「あ、あの…歌…素敵でした!!」
顔を真っ赤にして一生懸命話す子
「吉田クン!!私前から吉田クンってカッコいいな~って思ってたんだ!!」
名前も知らないやたら馴れ馴れしい女
「あのっ!!これもしよかったら!!貰ってください!!」
差し入れをくれる子といろいろだった
今までこういう経験が皆無だったせいでおたおたしてしまう
クラスの女子はその様子を見て笑ってた
こういう時どうするのが正解なんだろう…
前学さんとケンカした時の頬付先輩を思い出した
なんか…あれは多分正解じゃない……
少し困ってバンドの先輩たちに助けを求めようとふと顔を上げた時に目の端に走り去っていく女子の後ろ姿が見えた
綺麗な薄ピンクのドレスを着てふわふわの髪を跳ねさせながら廊下を走っている……
ほかの人から見たらただ学校祭で着飾った女子が急いでる姿だけどオレはハッとした
「………先輩…?」
「?…どうしたの吉田君?」
「先輩!!」
「わ…」
周りにいた女子の壁から抜けて人の間に見え隠れする薄ピンクのドレスを追った
………先輩…先輩来てくれてたんだ…
嬉しくて必死に走った
あれは絶対に先輩だって自信があった
でも先輩の方が小柄ですばっしこっくてなかなか差が縮まらない
先輩は階段に入って一瞬視界から消えた
それを追って曲がるとドレスの裾をなびかせて階段を駆け上がる先輩が見えた
人がいなくなったせいで見通しも良くなって追いやすくなった
階段を2段飛ばしで駆け上がって先輩の細い腕をつかんだ
嬉しくて後ろから先輩を抱き留める
ドレスなんて着ているせいか先輩はいつもよりも細く感じた
「っはぁ…ライブ…来てくれてたんすね…」
上がる息を整えながら言う先輩は何も言わずに黙ってうつむいたままだった
「………先輩?」
「…………」
「…っ!?」
クルッと振り向いた先輩は目に涙を溜めて口を引き結んでこっちを睨み付けていた
先輩はオレの手を振り払おうとめちゃくちゃに暴れた
「離してよ!!やだっ!!」
「ちょ…先輩…なんで泣いてるんすか!!」
「やだっ!!戻ってよ!!あの女の子たちのところ戻りなよ!!!」
手の力が緩んでしまって思わず先輩の手を離してしまう
先輩は再度こっちを睨み付けて続けた
「……帰ってよ……来ないで…」
「………せんぱ…」
「あれ?コンちゃんもう戻ってきたの?」
うつむいて涙を流す先輩に手を伸ばそうとしたら邪魔が入った
階段の上から見たことのない他校の生徒が降りてくる
先輩はその人に駆け寄ってその人の後ろに隠れてしまった
…………だれッスか…そいつ…
黒いモヤモヤに支配される
他校生は自分にしがみついて泣く紺庄先輩に一瞬たじたじしたけれどすぐにオレの方を向き直ってにやっといやらしく笑って口を開いた
「なになに?痴話喧嘩?」
「は?」
「女の子泣かせるとかかっこわる~」
嫌な奴だった紺庄先輩が自分に縋ってると勘違いして気が大きくなっている
イライラしてきた
「良いから、先輩、もう一回こっちきて…」
「やだ…今…猛と話したくない………」
他校生が勝ち誇ったように笑った
そんな事はどうでもよかったけどそれよりも先輩の言葉がショックだった
なんで先輩に泣かれたのかはわかる、でも拒絶されるのがショックでたまらなかった
ことばが出ない
「じゃあ、まぁこの子はオレが連れてくから、負け犬君は帰んなよ、じゃあね」
他校生にぽんぽんと肩を叩かれた
そんな屈辱的な事をされても反応できなかった
そいつに連れられて紺庄先輩は上の階に消えて行った
オレは放心してしばらくその場から動けなかった
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