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泣き虫シンデレラ
猛に嫌われても知らないぞ!!
……………
学にそう言われた
猛に嫌われる…おれが泣いてばっかりだと猛はおれのこと嫌いになる……
そんなの嫌だ…
いやだ、いやだいやだ…
学に言われてからしばらくそのまま考えてた
……………ちゃんと…話さないと…
スマホの時計を見ると11時50分を過ぎてた
もうライブは始まっている
スマホの画面の右下にある未読メールのマークが目に入った
何気なくそれを開く
怖い…怖い…けど…ちゃんと見よう…見てちゃんと猛と話そう…
そうしておれはメールを読んだ
短いたった2行の文だった
それを読み終わるか終らないかのうちに立ち上がって走った
行かなきゃ、猛に…会いに行かなきゃ…
「あ、ちょ、コンちゃん?」
オレを待ってたのか後ろからお客さんの男の人の声がする
でもそんなの振り切って走った
後ろからその人が追いかけてくる音が聞こえた
でもハイヒールで全力疾走したせいで廊下で派手に転んだ
靴が脱げて、膝とおでこがじんじん痛んだ、足首を捻ったのか足首も痛い
後ろを見ると追いかけてきた男がおれの靴を拾って持ってくるのが見えた
「大丈夫?コンちゃん、立てる?」
その男がまたいやらしくおれの脇から手を差し込んで体を密着させて抱き上げるように立たせた
そのままおれの足を触って靴を履かせようとする
「…っわ!!」
その男の手を振り払って走った
……………いらない………
綺麗な靴も、魔法みたいなおしゃれだけで寄ってくる…おれの中身を見てくれない人も…そんなのいらない……
昨日のシンデレラを思い出した
おれは…おれは…シンデレラなんかよりもっと良い物を手に入れる…たくさん持ってる…
猛の顔が浮ぶ
おれを見てくれる…オシャレなんてしなくても…女の子の格好しなくても…おれのことかわいいよって、好きだよって言ってくれる人がおれにはいる…
足もおでこも痛かったけどムリして走った
猛に言わなきゃいけないことがたくさんあるんだ…
体育館のドアが見えた
閉会式を含めた12時ライブだけあって大量の人でにぎわっているのが遠目にもわかった
そのまま人の間をかき分けて体育館の入口にやっとたどり着いた
ステージの上にチラッと猛の姿が見えた
今日も女の子がたくさん見に来てた…
「猛!!!」
大きな声で猛を呼ぶ
ライブ中だとか、人がたくさんいるとか気にしなかった
それでも騒がしい歓声にかき消されてしまった
人より小さいおれはすぐに人に阻まれて猛の姿を追えなくなった
猛…猛!!
前に進もうとしても人が多くて進めない
上にも出れない、ぎゅうぎゅう人に押されてもみくちゃになる
猛に気づいてもらおうと必死に手を上げて猛の名前を呼んだ
先輩!!
猛の声が聞こえた気がした
するといきなり強い力で引っ張られて押しつぶされそうなくらい狭くて苦しかったのが楽になって、視界が開けた
息を切らしておれの顔を覗く猛の顔が目の前に見えた
じわっと涙が滲む
「………たけ…る…」
「………先輩…」
「…っん!!」
また猛に引っ張りあげられて今度はキスされた
舌を入れられて深くキスされる
周りが一瞬静まりかえったあとガヤガヤと騒がしくなる
女の子のきゃーって悲鳴や小声で話してる音が聞こえる
……猛……こんなとこで…こんなに人のいるところで、こんなことしたらばれちゃうよ…
猛目立つの嫌なのに、目立っちゃうよ…
それでも猛は唇を離さなかったぎゅうっとオレを抱っこした状態で抱きしめて深くキスを続けた
猛に引っ張り上げるように抱かれてるせいでどんどん背中が反り返って顔を上に上げたせいで頭に着けてたくるくるふわふわパーマのウィッグがずるっと落ちてしまった
周りが余計に騒がしくなった
……女の子じゃなくなっちゃったもんなぁ…魔法解けちゃったなぁ…
でも全然気にしなかった、猛がキスしてくれるだけでどうでもよくなった
……猛…猛…
ちょうど12時だった
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