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そんなやつ…
唇にふにゃっとした柔らかい物があたっている
頭がうまく回らなかった
……………へ…?…
しばらくすると今度はいきおいよく体を後ろに引っ張られて唇に当たってた柔らかい物は離れて行った
突然引っ張られて手に持っていた紙袋を落としてしまう
バランスも崩してこけるって思ってギュッと目をつぶった時にどんっと何かに背中があたって持ちこたえた
ぶつかったのは銀だった
見上げると銀は眉間にしわを寄せて嫌悪をあらわにしてブチ切れてた
「あーあ、邪魔しないでよ、銀くん」
志波は自分の口元に指を当てて楽しそうにぺろっと唇を舐めていた
志波はいつもみたいに笑顔だったけどなんだかすごい嫌な笑い方だった
ちょっと銀がいつもニヤッと笑う感じに似てたけどそんなのよりもずっと黒い笑みだった
「……おまえ…なにしてんねん……」
「……別に?何って学にちゅーしたんだけど、わかんないの?」
志波はくすくす笑ってた
銀は俺の肩に手を置いたままわなわな震えている
銀が感情を表に出して怒ってるのを初めて見た
めちゃめちゃ怖い
「別にそんなこと聞いて無いねん…」
銀が俺をさらにぐいっと引っ張って後ろにやって志波に向かってつかつか歩いて行く
よろけて立ちなおした時には銀が志波の胸ぐらをつかんでいた
「もとからお前気にくわないねん…ちまちまちまちままな使ってオレに嫌がらせしよって……何がしたいん!!」
「やめてよー服が伸びるよ」
「うっさい!!何したいか聞いてんねん!!」
銀が怒鳴ってる………
初めて見る光景にあっけにとられてたけどハッとして銀を止めないとと思った
銀は今にも志波に殴りかかるか絞め殺すかしそうな勢いだった
「ぎ…銀!!ダメだって!!」
銀と志波との間に入る勇気にはさすがに慣れなくて銀の着てたコートを後ろから引っ張った
銀が志波の胸を掴んだままこっちを見る
じろっと睨まれてるみたいで怖くてすくみ上った
………で、も…
「ぼ…暴力は、だめ、だって…だから…その……志波、離してやれよ…」
怖くて声が震えてる気がする
どんどん尻すぼみに声は小さくなっていってしまった
銀の顔も見ることができない
正面で銀がはぁっと息を吐いた音が聞こえた
「………なんなんまな………まなこんな奴庇うん?…」
「庇うって…そう言うわけじゃ……」
「そうやろ?こいつにキスされたんやで?なのにこいつ庇うんや……」
「………」
「なんなん?ほんとはキスされて嬉しかったん?されたかったん?」
「そんな!!…」
「もうええわ…知らん…」
銀は志波の服を離して俺の手を掃って人ごみの中に入って行ってしまった
チッて舌打ちが聞こえた気がした
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